James R. Jones著「The Last Plantation: Racism and Resistance in the Halls of Congress」

The Last Plantation

James R. Jones著「The Last Plantation: Racism and Resistance in the Halls of Congress

人種差別を禁止したり労働基準を設定するための法律を成立させながら、自らをそうした雇用者規制の対象外においている連邦議会を職場とする黒人労働者たちが置かれた状況と、それを変えていくためのかれらの闘いについて、当事者への取材を元にまとめた本。

アメリカではルーズヴェルト大統領のニューディール政策においてさまざまな労働者保護の制度が設立され、また1960年代からは人種や性別を理由とした差別を禁止する法律が制定されたが、それらの法律を成立させた連邦議会自体は例外としてそれらの雇用者規制の対象外とされた。立法府が成立させた法律を執行するのは行政府の役割であり、立法府である連邦議会における雇用状況について行政府が介入するのは三権分立の原則から好ましくない、というのが表向きの理由だが、自分のオフィスで白人男性だけ採用することを邪魔されたくない白人政治家たちの思いが背後にあったことも確か。そのせいで連邦議会で働く人たちは労働組合を設立することができなかったり、あからさまな差別を受けても対抗する法的な手段がなかった。連邦議会を特別扱いするそうした法律の多くは近年になって修正され連邦議会にも労働者の権利を守る仕組みが適用されるようになってきたが、清掃員や議会内のレストランや店舗の職員として多くの黒人たちが働く連邦議会が「最後のプランテーション」と呼ばれたのはそういう理由がある。

連邦議会が円滑に運営できるように清掃やサービス労働を提供する黒人たちと、連邦議会そのものや各委員会、各議員たちのオフィスで政策や広報などの仕事をして働くホワイトカラー労働者との格差は激しく、後者のほとんどは白人男性によって占められる。議会のホワイトカラースタッフはそれぞれのオフィスで個別に採用され、人種や性別に関するデータも一貫して収集されてはいないので具体的な数値を出すことは難しいのだけれど、実際に議員で働いている黒人たちは自分と似た見た目の人がごく少ないことは毎日実感している。議会オフィスでの仕事を得るためには何らかのコネが必要であり、家族に政府や議会で働いている人がいたり、エリート大学の社交クラブでつながりがある人たちが圧倒的に有利。すなわち歴史的にそれらのスペースから排除されてきた黒人たちにとっては不利にはたらく。

また、将来連邦政府や議会、そしてそれらとやり取りするロビー業者や企業などに就職したい人にとってその第一歩となるのは議会や議員オフィスでのインターンシップだが、そのインターンになるにもエリート大学に通っていたり、政治家の地元の有力支援者の推薦などがあれば有利になる。「Undiplomatic: How My Attitude Created the Best Kind of Trouble」著者のDeesha Dyer氏のような例外はあるにしても、そうしたコネのない多くの黒人たちにとっては困難な道だ。さらに、基本的に無給のインターンシップのために物価の高いワシントンDCに自費で数ヶ月も滞在するためにはそれなりの蓄えも必要であり、どんなに能力と野心があっても経済的に難しい。

連邦議会や議員のオフィスで働くスタッフは当人の政治思想を実現するためではなく議員の政策を支えるために働いているとはいえ、かれらが持つ影響は大きい。地元の有権者から寄せられるさまざまな意見や問題提起をスクリーニングし、どれを議員本人に伝えるのか、どのような問題についてどういう角度から調査しプレゼンするのか決めるのはそうしたスタッフだからだ。また議員スタッフの入れ替わりは激しく、議員のスケジュール管理のために雇われた人が数年後には政策秘書になっているようなパターンも少なくない。そうした場面で政治に影響を与えているスタッフたちが一部のエリート大学出身の白人男性たちに激しく偏っていることは、黒人や女性、ブルーカラー労働者やサービス労働者らさまざまな人たちの政治的課題が政治によって取り上げられる機会を奪っている。

もちろんそういう状況において、黒人たちも数少ない同胞を支え、仕事を紹介しあったり推薦を与えるなどしているが、黒人たちのネットワークは白人男性のネットワークよりはるかに小さく力も弱い。近年AOCを筆頭としたスクワッドのメンバーたちのようなラディカルな考えを持つ黒人やラティーノなど非白人の議員も増えており、かれらが草の根運動の経験がある多様な人たちをスタッフとして雇っていることは今後のためにとても重要…なんだけどイスラエルを支持する団体が今年の選挙にやたら大金を注ぎ込んでかれらを落選させようとしていて、たとえば「The Forerunner: A Story of Pain and Perseverance in America」を書いたコリ・ブッシュ下院議員はかなり危ういという話も聞いているので、これでまた一気にパレスチナ支持派が減るだけでなく連邦議会における黒人やラティーノなどの議員スタッフも減りそうなのが不安。