Donna Murch著「Assata Taught Me: State Violence, Racial Capitalism, and the Movement for Black Lives」

Assata Taught Me

Donna Murch著「Assata Taught Me: State Violence, Racial Capitalism, and the Movement for Black Lives

ブラックパンサー党についての研究で知られる黒人女性の歴史学者が、元ブラックパンサーでその後継団体の一つとされる黒人解放軍に参加した活動家アサタ・シャクールの現在に至るまでの影響を踏まえつつ、黒人コミュニティや貧困層に対する抑圧や弾圧との戦いについて綴ったエッセイ集。

アサタ・シャクールは1973年に警察との銃撃戦で警察官を射殺したとして逮捕されたが1979年に仲間の支援を受けて脱獄、キューバに亡命している。当時のアメリカではFBIが違法な捜査や証拠捏造、スパイを潜入させて犯罪に導いての摘発などによりブラックパンサー党や黒人解放軍などブラック・ナショナリズムの組織に対する弾圧を強めていて、実際に1973年になにが起こったのかはっきりしない。しかし彼女はいまでもブラック・ライヴズ・マターなど新しい世代のラディカルな反差別運動をインスパイアし続け、シカゴには「アサタの娘たち」という黒人クィアフェミニズムを掲げた運動があるほか、彼女が唱えた「自由のために戦うことはわれわれの義務である」に始まる闘争宣言は頻繁に復唱される。

さて本書だけれど、著者が1960年代以降のブラック・ナショナリズムの歴史研究者として書いたエッセイ集であり、実際のところこの本でアサタ・シャクールに直接言及される部分はそれほど多くない。若いラディカルな黒人たちがどのようにしてブラックパンサー党をはじめとするブラックナショナリズムに傾倒したか、マッチョなイメージの強い武装自衛路線と同時に無償の食事や医療を提供するなどミューチュアルエイドの活動をどのように黒人女性たちが構築したか、といった話とともに、黒人社会のなかにおける階級問題や警察に対する態度の温度差、麻薬の蔓延とそれを口実とした警察による暴力の強化にどう対応したかなども。

また、若い黒人たちの運動をなんでもブラック・ライヴズ・マターと混同するメディアに苦情を呈しつつ、BLMやそれと関係するさまざまな運動、たとえば前述の「アサタの娘たち」やフロリダの「ドリーム・ディフェンダーズ」などそれぞれの活動の歴史についても丁寧に紹介している。ツイッターで突然ブラック・ライブズ・マターがはじまりバズった、みたいなメディアの扱いに抵抗するためにも、貧しい黒人女性たちが中心となった運動の現場から見た現代黒人コミュニティ史の本として必読。