Robert Levine著「The Failed Promise: Reconstruction, Frederick Douglass, and the Impeachment of Andrew Johnson」
リンカーン暗殺のあとに大統領になり弾劾されたアンドリュー・ジョンソンと、奴隷解放・黒人市民権活動家フレデリック・ダグラスについての新しい本。ジョンソンは奴隷制のあるテネシー出身の民主党員であり、奴隷所有者でもありながら、南北戦争において分離独立を宣言した南部を厳しく批判し、共和党員の現職大統領リンカーンの副大統領になる。奴隷制支持者から唐突にリンカーンより積極的な奴隷解放論者になり、自らを「黒人を自由に導くモーセ」と位置づけるも、リンカーン暗殺後には黒人の権利や安全を守るための法案に続々拒否権を発動し、南部の復権を進める。南部による分離独立は憲法上不可能だから、実際には分離独立していなかったのであり、つまり法的には何も起きなかったという論理。
ダグラスをはじめとする黒人活動家・指導者たちは、初期のジョンソンに期待しつつも、南部で頻発した白人暴徒による黒人の虐殺などを放置し、南軍指導者たちの復権を許す大統領に失望する。それでもジョンソンは自分こそが黒人の一番の味方だという意識のまま、黒人たちの意見を聞かずに一方的に「こうすればいい」と押し付ける。しかもその際、「自分は奴隷を所有していたし買いもしたが、一度も売り払ったことはない」と、それが自分が黒人たちの味方である証拠だと言わんばかりに繰り返し説明して呆れられる。
あまりに拒否権を濫用しすぎたばかりか、黒人の権利を主張する議員たちを中傷するなどした結果、ジョンソンは弾劾され、罷免こそされなかったものの次期大統領選挙への党指名は得られなかった。南部リコンストラクションの挫折と白人至上主義の復権は、白人中心のアメリカ史の記述では「避けられなかったもの」として描かれがちだけど、本書はダグラスをはじめとする黒人指導者たちが当時から、現代でも通用する説得力のあるレトリックでそれに抵抗し続けてきたことに注視している。黒人の視点から見たアンドリュー・ジョンソンの政権と弾劾について描いたという点で良い本。続編としてグラント政権の時代について書いてほしい。