Kim Kelly著「Fight Like Hell: The Untold History of American Labor」
労働運動の歴史のなかのあまり注目を集めて来なかった女性や移民、クィア&トランスなどに焦点を当てた本で、著者は労働問題を得意とするジャーナリスト。労働運動の歴史といえば、炭鉱や自動車工場などでストライキを起こした白人男性労働者たちの歴史が注目されがちだけれど、華々しく語られるそうした歴史の裏には、縫製工場や洗濯場で働いていた20世紀初頭の移民女性をはじめとした多くの女性やマイノリティの労働者たちが闘ってきた歴史もある。もちろん炭鉱や重工業で働きその現場で運動に参加した女性やマイノリティもたくさんいたし、先日紹介したNell McShane Wulfhart著「The Great Stewardess Rebellion」に描かれたスチュワーデス運動(この本のイントロダクションをスチュワーデス組合を源流に持つフライトアテンダント組合の会長が書いていてアガる)や他人の家庭で家事をする家庭内労働者の運動、さらには性労働者運動や刑務所に収監されている刑務労働者たちによる運動など、これまで労働運動の歴史から省かれてきたさまざまな運動について触れられている。
わたし的に嬉しかったのは、ポートランドの医師のマリー・イクィさんについての記述があったこと。彼女は20世紀初頭に活躍したレズビアンの医者で、当時はもちろん違法な妊娠中絶を行ったほか、患者の収入に応じた料金を取るなど先進的な試みをしていた人。アナキストで労働活動家だったパートナーの女性とともに警察に襲われたことをきっかけに自身もアナキストとなり労働運動に参加、第一次世界大戦へのアメリカの参戦に反対する運動をしたことで反逆罪に問われ3年間刑務所に入れられた。ポートランドではいまでも彼女が参加していた組合が活発で、むかし彼女について少しだけ聞いたことがあったのだけれど、ちゃんと知れてよかった。
ほかにもフィリピンから労働者を輸入しようとした船に乗務員として労働活動家が潜入し、かれらがアメリカに到着することには全員が組合に加入していた話とか、同僚の嫌がらせを気にせず一人で働ける現場としてトラック運転手を選んだトランス女性の話、スチュワードとなったゲイ男性たちが加入したフライトアテンダント組合がほかのどの組合よりも先にHIV/AIDSに感染した組合員や同性パートナーが医療保険を失わないように運動した話、そしてわたしが良くしっている性労働者運動の話や、労働者として運動する権利すら認められていない刑務労働者たちの運動など、興味深い話が満載。スチュワーデス本に続いて大満足な労働運動の歴史本だった。引用されているゲイ男性スチュワード本Phil Tiemeyer著「Plane Queer: Labor, Sexuality, and AIDS in the History of Male Flight Attendants」(2013)やフライトアテンダント運動における女性とクィアの共闘の歴史本Ryan Patrick Murphy著「Deregulating Desire: Flight Attendant Activism, Family Politics, and Workplace Justice」(2016)、クィアなトラック運転手本Ann Balay著「Semi Queer: Inside the World of Gay, Trans, and Black Truck Drivers」(2020)など、今後読みたい本がたくさん増えた。