Adam Smith著「Lost and Broken: My Journey Back from Chronic Pain and Crippling Anxiety」
ワシントン州のわたしが住んでいる地域から選出されている連邦下院議員アダム・スミスが不安症と慢性疼痛(慢性痛)に苦しんだ経験を綴った本。
経済学の元祖と同姓同名の著者は、シアトル近郊から選出された下院議員のなかで一番ぱっとしない人。現職政治家による本だけど内容のほとんどは著者がどれだけ不安症や慢性疼痛に苦しまされたか、なんとかして苦痛を和らげようとたくさんの専門家に診てもらったか、という話が大部分。自身の経験をもとに医療のあり方について論じる部分もあるものの、具体的な政策の提言というよりは、民主党のさまざまな議員たちが提案している改革案のほとんどどれでも現状よりはマシだからとにかくなんとかしてくれ、という悲痛な訴え。
議員として活動しているおかげで著者のもとには同僚や支持者、ほかにもさまざまな人からあれこれ専門家や治療法を紹介され、それを片っ端から試していった結果、人体はもともと放っておいても健康を回復しようとするもので専門家も患者もたまたま当人が回復する時に受けていた治療法が「効いた」と思い込んでしまうけど、実はなにが効くかなんてよくわからないのではないか、とか、そうだよなーと。
また著者は昔から不安症に苦しんでいて、ときには政治家としての活動も難しいくらいだったけれども、支持者の信頼を失うことを恐れてずっと隠していた。あとから慢性疼痛が発症して地元と議会の往復やひどいときには議会への出席もできなくなったけれども、それまで精神疾患をひたすら隠していた著者にとっては「公にしても構わない病気」にかかったことで逆に不安が和らいだという話は興味深い。
どちらの症状もそこそこ緩和されたいまだからこそ、精神疾患のスティグマと闘うために本書で公表したということなのだと思うけど、かれ自身が隣の選挙区のプラミラ・ジャヤパル議員のように人々をインスパイアするタイプの政治家ではないので(だいたい政治家の著書のタイトルとして「Lost and Broken」ってありえる普通?)、名前もジェネリックで特徴のない民主党主流派の政治家がキャラ付けてきたな、という気もする。