Ty Seidule著「Robert E. Lee and Me: A Southerner’s Reckoning with the Myth of the Lost Cause」

Robert E. Lee and Me

Ty Seidule著「Robert E. Lee and Me: A Southerner’s Reckoning with the Myth of the Lost Cause

南軍モニュメントについての歴史を学んだうえで、次に読んだのがこの本。著者は南部出身の白人男性で職業軍人からウエストポイント陸軍士官学校の歴史学教授になった人。ジョージ・ワシントン、ロバート・リーという二人の「偉大な将軍(ワシントンは独立後初代大統領に)」を排出したバージニア州に生まれ、子供のころからかれらに憧れ、かれらのような南部の名士になりたいと願った著者。かれらの名前から名づけられたワシントン&リー大学に通い、卒業した際にはリー将軍の遺体が地下に埋葬された校内のチャペルでワシントンとリーの肖像に囲まれて軍への入隊の誓いをあげた。しかしその誓いが、南北戦争においてリーをはじめとする米軍所属の兵士や将校がアメリカ合衆国に反逆した南軍に参加したあとに、そのような反逆を二度と起こさせないために決められた文言だとは当時のかれは知らなかった。

その後、軍内の歴史家としてのキャリアを積み、陸軍士官学校の教授になるころには、歴史を学んだ結果、リーの行為が合衆国に対する反逆であったことや、その目的が奴隷制の維持だったことなどに気づいていて、ところがその反逆者であるリーを讃えるモニュメントや賞などが士官学校に多数あることに気づき驚いた。あるとき、過去のすべての戦争で犠牲となった士官学校出身者たちのモニュメントを校内に作ることになり、著者はリー将軍をはじめ南軍に参加し犠牲になった卒業生たちは含めるべきではないと主張したけど、同僚の賛成を得られなかった。どうして歴史的事実に基づいて判断できないんだ、と嘆く著者。

そのとき、あなたは論理で説得しようとしているが、あなた自身がどのように変わったのか語る必要があるのではないか、と妻に諭され、自分が過去にどのように人種差別や南軍神話を内面化していたのか語るようになった。その集大成がこの本。自分は子どものころから奴隷制や南軍を美化する映画や本や歴史の授業に触れさせられてきたが、その裏で苦しめられてきた黒人たちの歴史について一切教えられてこなかった、リー将軍を地元の誇りと信じていながら、自分の街で起きた黒人たちのリンチや抵抗の歴史については一切知らなかった、自分が過去見てこなかったもの、見せられてこなかったものを直視した結果、リー将軍は奴隷制を守るために祖国に対する反逆を企て20万人を超える戦死者を出し、多数の黒人が自由を得るのを遅らせた人物である、そしてそうした歴史的事実を隠蔽するために作られた南部神話というウソが、いまも人種差別の温存に利用されている、とワシントン&リー大学でスピーチするまでに。

著者の立場に対しては、保守派だけでなく、リベラルからも「結局南軍は悪だといいながら米軍を美化していて、米軍による非人道的行為にはダブルスタンダードではないか」という批判もあるけど、ここまで生々しく過去に自分のレイシズムへの社会的洗脳の過程をさらけ出して発言するのはすごい。

ちなみにSeiduleの本ではこのようなジョークが紹介されている。建物の屋上から飛び降りようとしている男に、別の男が「お前の妻や家族や信仰のことを考えろ」と言うけど、自分には家族も信仰もないと答える。「じゃあロバート・リーのことを考えろ」という呼びかけに「ロバート・リーって誰だ?」と男。「なんだヤンキーかよ、飛び降りろよ」。このジョークを言ったのは、アイゼンハウアー政権で国家安全保障補佐官を務めた南部出身のゴードン・グレイ。南部人にとっては無神論者よりロバート・リー将軍のことを知らない人のほうが許しがたいということだけど、これは南部人のリー将軍崇拝をからかうジョークじゃなくて、リー将軍の肖像画が披露される式典において、南部人にとってどれだけリー将軍が尊敬されているか、というたとえとしてのジョーク。SeiduleがW&L大学に通っていたときも、リー・チャペルにはお祈りの本も賛美歌の本もキリスト像もなく、キリストではなくリー将軍が崇拝されているようだったと。