Sophia Rose Arjana著「Buying Buddha, Selling Rumi: Orientalism and the Mystical Marketplace」

Buying Buddha, Selling Rumi

Sophia Rose Arjana著「Buying Buddha, Selling Rumi: Orientalism and the Mystical Marketplace

宗教学者の著者による、欧米のスピリチュアリティ運動や神秘主義における仏教・ヒンドゥー教(およびヨガ)・イスラム教(スーフィズム)の文化的盗用・商業的展開についての本。伝統的なキリスト教の教会に嫌気が指した白人たちが、それでもスピリチュアリティや神秘主義に惹かれ、それを「東側」の文化に求める動機には理解を示しつつ、それらが元の文化に対するリスペクトや関係性を欠いたものであることや、商業的に利用されていることなどについては厳しく批判。わたし個人、仏教やヨガなどのモチーフが主に白人たちによって宗教的伝統やコミュニティから切り離されたオリエンタルな意匠として使われているのはよく見るけれども、スーフィズムについてはわたし自身よく知らなかったこともあり特に意識していなかったので、スーフィズムがイスラム教の伝統から生じたものであることを否定したり、その代表的詩人・神学者のルーミーの言葉を捏造するなどして欧米に都合のいい形で利用されているなど、そんなことになってたのか!と驚いた。

本書ではバーニングマンフェスティバルのようなイベントや映画、ベストセラーとなった自己啓発本やそれに付随する瞑想ツーリズムなどを通して、「東側」の宗教的な伝統やその他の文化的要素がもとの文脈から切り離されたうえでごちゃまぜにされて利用されていることが詳しく解説されている。最終章では「スターウォーズ」シリーズやドラマ「ロスト」を通してハリウッドやエンターテインメントにおける文化的盗用について触れているが、これは著者の次の本のテーマらしく、いまから楽しみ。スターウォーズにおける仏教やサムライや少林寺拳法などのオリエンタルな要素についてはこれまでさんざん議論されてきたけど、イスラム文化の引用についてなど十分に論じられていない論点がまだあるとのこと。文化的盗用とはなにか(なにが文化的盗用なのか)という議論を主題とした本ではないけれど、文化的盗用が単なる異文化交流のルールのようなものではなく、さまざまな文化とそれを育んだ社会に対する政治的な権力関係を含む「関係性」の問題なのだというメッセージは強く感じた。