Shanita Hubbard著「Ride-or-Die: A Feminist Manifesto for the Well-Being of Black Women」

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Shanita Hubbard著「Ride-or-Die: A Feminist Manifesto for the Well-Being of Black Women

ヒップホップの影響を受けて育った黒人女性の著者が、家族のためコミュニティのために自分を犠牲にしてしまうことの多い黒人女性たちの置かれた状況を告発し、黒人コミュニティや黒人男性が黒人女性をより尊重するだけでなく、黒人女性自身がほかの黒人女性を押さえつけるのではなく支え合うよう訴える本。

タイトルの元となったThe LOXのヒット曲「Ryde or Die, Bitch」が象徴する、男性に都合のいいあり方を女性に押し付ける社会の構図への批判から、Jay-Zのアルバムおよびシングル「4:44」が男性から女性への謝罪の表明として歓迎されるなか見落とされているものの指摘、あるいはCardi BとMegan Thee Stallionの「WAP」が表現する女性の性的な主体性とレスペクタビリティをめぐる議論など、著者自身の経験やほかの黒人女性たちとの会話を通して丁寧に論じられる。

第6章では異性愛者である著者がクィアやトランスの黒人女性たちへの暴力や差別について負う責任について、著者が実際にクィアの友人に対して言ってしまった失言の反省を交えつつ議論。クィアやトランスの黒人女性たちを物理的に襲ったり殺したりするのは大半が男性であって著者を含めたシスヘテロの黒人女性ではないけれど、暴行を加えないから、殺さないからといって暴力的ではないことにはならない。黒人教会やヒップホップにおけるホモフォビアやトランスフォビアを指摘したうえで、自分が直接クィアやトランスの黒人女性に身体的な暴力を振るわないからといって、それはクィアやトランスの黒人女性たちを対等な人として尊重していないことの言い訳にはならないと指摘する。

短いけれど読みやすく個人史と黒人女性が置かれた社会的状況への分析がうまくまとめられた良い本。ヒップホップへの多数の言及はヒップホップ好きにとっては嬉しいけど、ヒップホップを知らない人でもたぶん理解できるように書かれている。おもに黒人女性のために書かれた本だけれどそれ以外の人たちにもおすすめ。