Sarah Schulman著「Let the Record Show: A Political History of ACT UP New York, 1987-1993」

Let the Record Show

Sarah Schulman著「Let the Record Show: A Political History of ACT UP New York, 1987-1993

レズビアン小説家・アクティビストが編集したACT-UPについてのオラルヒストリー。750ページ超えで内容たっぷり。白人ゲイ男性中心に記憶されがちなACT-UPの歴史について、Schulmanさん自身に加えて100人を超える参加者たちの声を通して重厚に伝える。患者が、家族や友人が、アーティストが、ライターが、法律家が、医療やメディアの関係者が、それぞれどのように「AIDS問題解決」のために集まり行動したか、よくわかる。数々の有名なプロテスト(CDCやNIHなど公衆衛生機関でのものや教会での抗議、ニュース番組や証券取引所への乱入、その他)がどうして起きたのか、どのようにやったのかなども。周りで何十人もの人たちが死んでいく、文字通り「時間がない」状況で起きた活動。自分が死んだあとの葬式すら抗議活動にしてしまう、ものすごいアイディアと行動力。わたしがクィアコミュニティに出会ったのはACT-UPより後なので直接関わることはできなかったけど、当時を知っている人たちから色々話を聞いていたので、こうして全体を知ると「そういうことだったのか」と思い出すことが多い。歴史を通じての内部対立構造は、薬さえ開発されれば自分は助かると信じる金持ちの白人男性たちと、その薬の開発から疎外されているばかりかすでに存在する医療すら受けられないそれ以外の人たちで、それが分裂に繋がった。

あと、影の主役ともいえるのが、コロナ危機いらい全国に知られるようになったアンソニー・ファウチ博士。ACT-UPの歴史を通じて医学研究側の最重要人物で、さまざまな局面や関係者の主観により敵のラスボスだったり理解者だったり。ファウチ自身、ACT-UPとの時によって敵対的だったり友好的だったりする関わりのなかで変わった部分もあるだろうし、ACT-UPやゲイコミュニティの取り組みの結果として感染症対策における患者の保護の仕組みも整備された面があり、かれらの活動の恩恵を、いまみんな受けている。ACT-UP活動家とファウチ博士の関係はものすごく複雑なのだけど、あの時代に高い地位にいたヘテロ男性なのに、ホモフォビアが一切見られないのは凄い。かれの行動に批判的なアクティビストでも、かれがホモフォビックだったという人はいないし、逆にホモフォビックでなかったことに驚かれている。

ファウチ博士、いま右翼陰謀論者からめちゃくちゃ攻撃されているし、ちょっと前まで大統領にまで攻撃されてたけど、それを気にせず必要なことを進めることができるのは、ACT-UPとさんざんやりあった経験が生かされてるかも。はやくコロナ終わってファウチさんにゆっくり回顧録書く時間をあげて欲しい。とはいえACT-UP分裂にもファウチ博士は無関係ではない感じ。もともと治験を最重視する白人ゲイ男性グループと、医療や住居へのアクセスの不平等さに取り組む人たちとの対立が続いていたところに、ファウチをはじめとする政府の専門家が女性のAIDS治療を後回しにしている、というデモがあったけど、そのデモの最中に前者の代表がファウチと会食をしていた。女性やマイノリティたちの意見にファウチらが耳を傾けないからデモしているのに、裏で白人男性活動家と食事までしていた、という状況。分裂のきっかけといってもいいかも。ACT-UPは非営利団体として登録したり外部の資金援助を求めようとはしなかったけど、前者のグループはACT-UPを離脱し、正式に非営利団体となり、製薬会社などの寄付を受け入れるようになる。

本書のもととなっている200近い証言は、ACT UP Oral History Project で公開されているので、気になった証言は完全版で観ることができる。しかし考えてみたら、あれだけのインタビューを構成して1冊の本にするって、めっちゃ大変そうだ… 自分の言葉で3冊書くほうがまだ楽な気がする。てか3冊分のボリュームある(750ページ)あるけど。