Robert Elder著「Calhoun: American Heretic」

Calhoun

Robert Elder著「Calhoun: American Heretic

19世紀のアメリカで上院議員や副大統領を歴任したジョン・C・カルフーンの新しい伝記。天才的な理論家として奴隷制を必要悪どころか正義として位置づけ、のちに起きた南部による連邦離脱のロジックを作った人。

どうしていまカルフーンかというと2つ理由があって、まず第一に2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で起きた白人至上主義者による銃撃事件で8人の黒人が虐殺されたあと、その教会の近くにあったカルフーンの功績を称える銅像を撤去する運動が広がったこと。銅像は2020年にジョージ・フロイド氏殺害事件をきっかけとしたBLM運動の全国的な盛り上がりのなか撤去されたけど、サウスカロライナ州の白人たちに地元出身の偉人とみなされていたカルフーンに対する批判的な再評価が(白人のあいだでも)起きていること。

第二に、「The Kill Switch」で解説されているように、全国的には少数派であるはずの南部の白人保守派が、多数派が推進する黒人や女性などの権利拡張を百年以上に渡って妨害している仕組みの成り立ちに深く関係し、その論理を組み立てたのがカルフーンだから。奴隷制を擁護し少数の南部白人男性がそれ以外の権利を否定するロジックは、現代の視点ではもちろん、当時の黒人や女性らの立場からも認められるわけがないのだけど、それがどういう経緯で、そしてどういう正当性を主張して生まれたのか、というのは興味深い。

わたしは歴史の大筋は知ってたけど、アダムズ、モンロー、ジャクソン、クレイ、ウェブスターといった当時の有力政治家たちとの関係が時代とともにどう変わってきたかなんて部分もおもしろい。カルフーンが死んだことで「南北分裂は回避された」と当時言われた(結局分裂したけど)なんてすごすぎ。あと、数十人の奴隷を所有していながらプランテーション経営に失敗して借金だらけになったりとか、そんなことある?って思ってしまったけど。とにかく、アメリカの白人男性政治家の伝記をガッツリ読んだのはたぶん高校生以来だった。