Roanne van Voorst著「Once Upon a Time We Ate Animals: The Future of Food」

Once Upon a Time We Ate Animals

Roanne van Voorst著「Once Upon a Time We Ate Animals: The Future of Food

現代をカーニズムからヴィーガニズムに価値観が移行しつつある、そして気候変動や食糧危機を乗り越えるためには移行しなければいけない転換期と捉え、その現状と未来を展望した本。著者は人類学の学位をもつ自称「未来人類学者」のヴィーガン。「より人道的な」飼育方法を採用しても構造的にやめられない動物虐待に耐えられなくなって家畜の飼育をやめた農家の人たちの話やヴィーガン同士で付き合いたい人のためのヴィーガン用出会い系サイトの話をはさみつつ、カーニズムを支えるさまざまな主張や偏見に反論する。動物倫理、健康、環境の面からヴィーガニズムの優位性を訴えるとともに、過去に人種や性差別に関する世間の認識が変わってきた例をあげ、人間による動物利用についても同じような価値観の変化が起きていると主張する。

未来学者が書いた本の特色として、章の合間に何度か「カーニズムが否定された未来」を描写した文章が挟まれている。その未来では、現代において奴隷制が悪とされているのと同じくらい肉食文化は悪だったとされていて、子どもたちは学校教育で人類がかつて動物に対してどれだけ酷いことが行われていたかというドキュメンタリを見たり、博物館として保存されている旧屠畜場に社会見学に訪れる。家に帰った子どもはおじいちゃんに対して、あなたは昔動物を食べていたって本当?どうしてそんなことができたの?と無邪気に質問し、おじいちゃんは「当時はそれが当たり前だったし、悪いとは気づかなかったんだよ」と応える。もちろんカーニズム文化は瞬時に終わったわけではなく、タバコと同じように最初は規制と課税の強化にはじまり、肉食をタブーとする文化が広まるという経緯をたどり、末期には変化に抵抗しようとする組織のテロ活動が活発になり、その対立をきっかけに家族が分裂することも多かったが、新たな世代はヴィーガニズムを当たり前のこととして受け止める。

こうした未来描写はスペキュレティヴ・フィクションとしてはおもしろいのだけれど、たとえば奴隷制が廃止されてから現代までどのように社会の価値観が変化したかを見れば、かつて当然のこととして肉食をしていた高齢者とそれが悪だという教育を受け当たり前のこととして受け入れる子どもが同じ家庭内にいるという時代は非現実的に思う。奴隷制度が廃止される何十年も前からそれを批判する人はたくさんいたし、廃止されてから何十年も奴隷制を支持する人も大勢いた。最終的に「奴隷制は悪」という考えが当たり前のこととして学校教育で取り上げられるほど社会の共通認識になったのは、奴隷制を当たり前のこととしていた世代がいなくなってからだと思う。著者は人種や性差別に関する世間の認識が変わった例を挙げ、カーニズムに対する認識も同じように変化する(させられる)と考えているようだが、過去の反差別運動の歴史に関する認識が甘いように思う。