Pamela Prickett & Stefan Timmermans著「The Unclaimed: Abandonment and Hope in the City of Angels」

The Unclaimed

Pamela Prickett & Stefan Timmermans著「The Unclaimed: Abandonment and Hope in the City of Angels

引き取り手のない遺体が増えるなか、どのような人が亡くなったあと引き取り手がいない状態になっているのか、自治体はそうした遺体をどのように扱っているのか調査するとともに、すべての人が尊厳のある死と追悼を迎えられるように取り組んでいる人たちの活動についても伝える本。わたしにとっても人ごとじゃないしめっちゃ気になる内容。

全体を通し、本書ではロサンゼルス地域で引き取り手のいない遺体となった四人の故人たちに注目し、そういった状況に陥る様々なパターンを紹介している。社会的に孤立し親族に残す遺産もない人だけが引き取り手のない遺体になるわけではなく、教会などのコミュニティと密接な関係があっても、あるいは葬儀や埋葬費用を出したうえでも十分な遺産があった人でも、複雑な事情により遺体を引き取ってもらえない状態になることはある。同性婚が認められるまえ、ドメスティックパートナーとして登録した同性のパートナーがいたにもかかわらず、故人の法的な家族がパートナーへの引き渡しを拒否し、かといって自分たちが遺体を引き取ることすらも拒んだ結果、故人を愛していたパートナーがいたにもかかわらず「引き取り人不在」として集合埋葬されたケースなども。

多くの場合、ある人が亡くなったら家族や親族に連絡があり、その家族や親族によって葬儀や埋葬が行われるが、連絡するべき家族や親族が分からない場合は自治体がさまざまな方法を使って親族を探す。それで見つからなければ引き受け人不在として、本人の遺産があればそこから費用を出して、無ければできるだけ費用のかからない方法で公的に埋葬することになるけれど、家族や親族が見つかっても引き取ってもらえるとは限らない。子どものころ故人による虐待を受けたので親子の関係を切った、など引き取りを拒否する理由もさまざま。単純に、経済的に困窮していて遺体を引き取りに来たり葬儀をあげたり埋葬するだけの費用がないという例も多い。故人が退役軍人だった場合、葬儀・埋葬費用は政府が支出することになっているのだけれど、それまでの遺体の保存や親戚が住む土地までの移送費用などが払えずに引き取りを断念することも。

家族や親戚の繋がりを持たず孤立しているホームレスの人や精神疾患のある人などは、自分が死んだら遺体は燃えるゴミとして出してくれていい、などと言うことも多いけれども、いくらアメリカがひどい格差社会だからといってそこまで遺体をぞんざいに扱うところまでは行っていない。自治体で働く人たちは引き取り手のない遺体に対しても予算の範囲内でできる限り尊厳のある扱いをしようと努力しているし、引き取り手のない遺体をコミュニティ全体で引き取ってきちんとした葬式をあげ追悼しよう、という試みも各地で行われている。いや尊厳のある死も大切だけれどそもそも尊厳のある生を保証してくれよ、とわたしは思ってしまうのだけれど、社会はわたしが思っているほどにはぶっ壊れていない面もあるのかな、と。

亡くなったあと引き取り手がない状況に陥る割合が高いのは、性別だと男性でとくに離婚した男性に多いが、未婚の女性もそうなる危険が高い。人種では白人より黒人のほうが割合としては高いが、経済的な理由ではなく家庭不和を理由とするものに注目すると白人のほうが多い。亡くなった年齢では中年で亡くなった人が最も多いが、これはおそらくいまわたしたちの社会が家族・親族の繋がりが崩壊しつつある過渡期にあるせいであり、今後は高齢者にも引き取り手のない死者が増えていきそう。日本の「コドクシ」を紹介するなど国際的にも同様な傾向は進んでいる。

引き取り手のないまま死なないために生前のうちから葬儀や埋葬の手続きを取ったり支払いをしておくべき、という人もいるが、個人の自己責任に頼る方法では解決にはならない。深刻な虐待などがある場合は別としても、家族や親戚の繋がりの大切さを改めて再確認するとともに、かつて多くの同性愛者たちが、家族から拒絶されたうえに同性パートナーによる遺体の引き取りも否定されていたが、同性婚の合法化によって愛するパートナーによって引き受けてもらうことができるようになったように、友人や教会などのコミュニティに遺体の引き取りを託せるような制度も必要。