Mariame Kaba & Andrea J. Ritchie著「No More Police: A Case for Abolition」

No More Police

Mariame Kaba & Andrea J. Ritchie著「No More Police: A Case for Abolition

公権力による暴力と私人間の暴力の両方をなくすための活動を長年続けてきた黒人女性活動家二人による警察・刑事司法廃止論の本。わたし自身、Mariameとはシカゴの地下経済(主に性労働)で働いている若い女性(メンバーの8割が黒人、2割がトランス)による運動団体の、AndreaとはIncite! Women of Color Against Violenceやその関連団体の非白人の性労働者や性産業に関わったことのある人たちのグループの活動で関わった関係だけれど(献本してもらったし)、本書では彼女たちの広範かつ長期的な活動についてより深く知ることができて個人的にも嬉しかった。

警察予算を削減してその分をコミュニティの本当の安全につながる社会政策に投資しよう、という呼びかけは2020年のブラック・ライヴズ・マター運動の盛り上がりで一気全国に広まり、その後各地でバックラッシュを受けて失速しているけれども、そうした主張が公に議論されるようになったのは画期的だった。そしてそうした主張はミネアポリス警察によるジョージ・フロイド氏殺害事件を受けて突然飛び出したわけではない。それまで同様の事件が起きるたびに議論されてきた「警察改革」がそのたびに黒人コミュニティなどの期待を裏切り続けてきたことを受けて、社会がようやく著者やその他の活動家たちの長年の取り組みに(頭ごなしに反発するという形であれ)向き合いつつあることを示している。

警察や刑事司法制度の廃止を求める主張は、いまの社会をそのままにしたまま警察や刑務所だけを廃止しようとしたり、あるいは他の人たちに危害を加える行為を野放しにする主張ではない。人々の安全を脅かす行為がそういった社会的環境によって生み出されているのか解明し、その原因を取り除くとともに、他の人たちに危害を加えた人たちを包摂しつつその行為の責任を問う取り組みだ。警察は人々の生命や安全を脅かす行為のうち犯罪と定義されたごく一部だけを取り締まるが、大企業や政府の「組織的な放棄」(ルース・ウィルソン・ギルモア)によって生命や安全が脅かされている多くの黒人やその他のマイノリティの人たちの安全は守らないばかりか、日常的に暴力や差別的な逮捕・処罰に晒している。

本書には章ごとに、警察廃止論が必要とされる理由やよくある誤解に対する反論を述べたあと、警察廃止論が性暴力などの被害を経験し刑事司法制度が自分たちの安全につながらないことを痛感した黒人女性を中心とするサバイバーたちによって訴えられていることを説明、さらにディスアビリティ・ジャスティスの文脈から「医療やソーシャルワークを名目にした、警察以外の警察的な権力による管理」への批判、警察による被害を減らそうと導入されるさまざまな改革案のうちどれが長期的な解放に繋がるものでありどれが警察の正統性を強化してしまうものなのかといった議論、警察への依存を減らすために既に各地で行われているさまざまな取り組みの紹介、などが次々と書かれている。

先に出たAngela Y. Davis, Gina Dent, Erica R. Meiners & Beth E. Richie著「Abolition. Feminism. Now.」と内容の重複はあるものの、こちらのほうがそれぞれの論点についてより詳しく紹介されているので、合わせて読まれてほしい。