Laura Shin著「The Cryptopians: Idealism, Greed, Lies, and the Making of the First Big Cryptocurrency Craze」

The Cryptopians

Laura Shin著「The Cryptopians: Idealism, Greed, Lies, and the Making of the First Big Cryptocurrency Craze

ビットコインに次ぐ社会的認知を受けている暗号通貨イーサ(ETH)とその背後にあるブロックチェーンプラットフォーム・イーサリアム(とカタカナでは表記するらしい)のこれまでの歴史についての本。著者は経済誌フォーブスの元編集者でクリプトジャーナリストを名乗っている人。よくもまあこんなに少しでも好感度を抱ける登場人物が一人も出てこない本を出したなあと思うのだけれど、全編がクソ不快なハッカーや投機家や詐欺師やその「アジア人女性の彼女」たちがドタバタするだけの話で、ブロックチェーンはこんなにすごい、イーサリアムはこんな可能性がある、と言われても、こんなヤバいブツに素人は手を出しちゃいけないよなとしか。

イーサリアムが分裂(フォーク)することになったDAO騒動のあたりは、これまでよく分かっていなかった部分が理解できた。イーサリアムでは「コードが法」なのだから、そのコードが書かれた通りの動作をした結果として暗号通貨を盗まれてもそれは受け入れるべきだ、被害が生まれたからといって誰かがそれを修復できるなんてことは認められない、というハードフォーク反対派の意見は、過激な原理主義でありながら、中央銀行を否定する考え方の延長として妥当でもあり、おもしろい。まあそれ以外にもいろいろアホみたいな問題が起きているし、と同時に投機狙いでわけの分からないもの(誰かの落書きNFTとか)に巨額のお金が動いていたりして、いつか暗号通貨発の経済危機とか起きそうで怖い。みんなちゃんと働いてお金稼ごうよ。

ストーリーの中にはアジア系女性が何人か登場するのだけれど(だいたいみんなイーサリアム関係者の白人男性と付き合っている)、彼女たちの扱いが総じてひどい。著者自身もアジア系女性なので著者個人の偏見というわけではないと思うのだけれど、ほとんどが白人男性の関係者への取材に基づいて本を書けば、彼女たちはヒステリックだ、(特にセクハラや性暴力の訴えについて)うそつきだ、みたいな話ばかりになる。それ以外にもイーサリアム業界のなかでセクハラや性暴力の訴えがあった、という話は何度か出てくるのだけれど、女性たちがそう言っていた、という記述があるだけで、結局スルーされちゃったんだろうなあと。

この本、めっちゃ力作なんだけれど、ほんとにとにかくイヤな奴らがドタバタするだけの話なんで、どう評価したものか。暗号通貨に夢を抱いている人はこれを読んで目を覚まして欲しい。