Kellie Carter Jackson著「Force and Freedom: Black Abolitionists and the Politics of Violence」

Force and Freedom

Kellie Carter Jackson著「Force and Freedom: Black Abolitionists and the Politics of Violence

18世紀から南北戦争が起きた19世紀にかけて米国北部で盛んになった奴隷制廃止運動において、キリスト教的倫理に基づいた「啓蒙による奴隷制廃止」を目指した白人たちの運動と、その支援を受けつつも武力を伴うコミュニティの自衛や武装闘争を模索した黒人たち(と一部の白人賛同者)の歴史についての本。アメリカ史の叙述においては白人による奴隷解放運動の功績が過大評価されることが多く、リンカーンが南北戦争を勝利に導いたおかげで黒人奴隷が解放された、みたいな語られ方がされがちだけれど、黒人奴隷による抵抗や逃亡奴隷や北部で生まれた自由な黒人たちの行動と言論が果たした役割と、そのなかで武力行使への支持が広がっていった歴史が示される。

当時の黒人たちの武力闘争主義をインスパイアしたのは、安全圏から奴隷制を批判していた白人奴隷解放論者と違って黒人たちは奴隷制自体の暴力及び奴隷制維持派の容赦ない攻撃に直面していたという事実に加え、自由と平等を掲げたアメリカ独立宣言の論理と、黒人奴隷の一斉蜂起による革命・独立を成功させたハイチの経験だった。また、1850年に成立した逃亡奴隷法により、北部に逃亡した奴隷を元の所有者に送り返すことが義務付けられると、その制度を悪用してもともと自由人だった黒人まで逃亡奴隷だと決めつけられて連れ去られることが起き、奴隷制度の脅威が全土の黒人に迫った。そうした脅威に対して当然生まれたのが、武器を取って仲間の連れ去りを阻止する抵抗運動だった。そういうなか、奴隷の解放と人種間平等の実現のためには武装闘争が必要だという考えが広まり、白人支援者の一部もそれに同調するようになった。南北戦争には黒人義勇兵や逃亡奴隷兵らが参戦したが、それはたまたま起きた戦争に便乗して自由を得ようとしたのではなく、かねてから広まっていた「奴隷制を終わらせるには武力が必要だ」という認識と準備があったことが背景にあった。

独立から約100年後の南北戦争とそこからさらに100年後の公民権運動がアメリカ史における転換期であることは疑いようがないが、多くのアメリカ人たちはその前者について黒人たちが自らの解放のために果たした功績を消し去り、後者についてはキング牧師の非暴力主義を甘ったるく解釈してその正当な攻撃性から目をそらす。そしてそれらの運動よりはるかに穏当な現代のブラック・ライブス・マター運動に対して暴力的だと評価してみせるけど、奴隷制や白人至上主義の暴力に対抗する「自由と平等のための暴力の行使」の伝統もきちんと記憶されないといけない。(このあたりはVicky Osterweil著「In Defense of Looting: A Riotous History of Uncivil Action」やAlex Zamalin著「Against Civility: The Hidden Racism in Our Obsession with Civility」など参照。)