Jermaine Fowler著「The Humanity Archive: Recovering the Soul of Black History from a Whitewashed American Myth」

The Humanity Archive

Jermaine Fowler著「The Humanity Archive: Recovering the Soul of Black History from a Whitewashed American Myth

専門的な歴史学者ではないけれども歴史について数十年かけて多数の本を読み学んできた市井の黒人男性が書いた、アフリカ系アメリカ人の通史。ヒューマニティ・アーカイヴというタイトルは、既存のアメリカ史において黒人たちが虐げられた奴隷として、そしてリンカーンら白人たちによって解放された人たちとして主体性を否定されたり、「夢を語ったキング牧師」や「疲れていたからバスの座席を白人に譲らなかったローザ・パークス」といった神話化・単純化された個人のプロフィールを通してのみ描写されることに抵抗し、生の人間としての黒人たちの歴史を語り直そうとする目的を表している。

2019年にはニューヨーク・タイムズ紙がアメリカ史を奴隷制に注目して語り直そうとした「The 1619 Project」を発表して話題を呼んだけれど、本書はそれより前、西アフリカのさまざまな社会の成り立ちとそれらとヨーロッパの交流から話をはじめる。著者は若いころブラック・ナショナリズム的な歴史リヴィジョニズムにはまり、エジプトやメソポタミアの文明を黒人のものだと考えたり、あれもこれもアフリカが起源だとか、古来からアフリカ人は南米の先住民と交流していた、といった歴史的根拠が薄い説を信じていたこともあったけれど、より深く学んだ結果より客観的に、そして一般の黒人たちの経験や生活に注目した歴史観を形成していく。そこで描かれるのは、美点だけでなく人間的な間違いや現実と妥協してしまった部分も認めつつ、自分とコミュニティの自由を求めて生きてきた過去の黒人たちへの感謝と共感だ。

わたし自身、最近の例を3つだけ挙げるとNick Tabor著「Africatown: America’s Last Slave Ship and the Community It Created」やAndrew K. Diemer著「Vigilance: The Life of William Still, Father of the Underground Railroad」、Alvin Hall著「Driving the Green Book: How Black Resistance Lit a Path Through Jim Crow and Beyond」など黒人の歴史に関する本をたくさん読んできたし、それらの本で扱われているトピックは本書でも触れられているけれど、アメリカにおける黒人の歴史を通史として読める本としてはこの本はこれまで読んだなかで一番良かった。どれか1冊だけ黒人の歴史についての本を紹介してくれ、と言われたら文句なくおすすめできる。ただし本書は意図的に公民権運動の話題をあまり扱っていない(黒人の歴史というと公民権運動の話ばかり語られすぎているから、と説明している)のでその部分だけはほかの本でカバーする必要あるかも。