Giorgio Parisi著「In a Flight of Starlings: The Wonders of Complex Systems」
2021年にノーベル物理学賞を受賞したイタリア人物理学者によるエッセイ。
タイトルは「ムクドリの飛行」で、物理学者の本でなんでムクドリ?と思ったけれども、ムクドリの群れという複雑なシステムのなかで個々の個体がお互いとどのように距離を取るのか、そしてその集合としてどのように群れとして移動するのか、というところから、原子のような小さなものの動きがどのようにして全体に影響を与え、あるいは全体のまとまりを生み出しているのか、という物理学の話、らしい。ムクドリやその他のたとえの話をしている部分はわかりやすいのに、スピングラスがどうとか具体的な物理学の話がはじまるとわたしには分からなくなってしまうのだけれど、興味がある人は日本物理学会のサイトにある「2021年ノーベル賞解説」を読んで。
さて本書は短いながらも著者の経歴や研究だけでなく、科学研究における直感の役割や科学論文におけるその抹消、科学的記述のなかにおける「たとえ話」の正しい使い方、そして文学やアートのように実用性ではなくそれ自体の価値を持つ科学のあり方など、尊敬を集める物理学者だからこそ重みを持つ内容がたくさん。スピングラスや統計力学はやっぱりよく分からないけど、読む価値はあった。