Françoise Vergès著「A Feminist Theory of Violence: A Decolonial Perspective」
ポスト植民地主義と脱植民地主義フェミニズムについての活動で知られるフランスのフェミニストの新作(の英訳)。白人至上主義や植民地主義の暴力とそれに対する反発や抵抗のなかから生まれる暴力の関係、そして女性に対する暴力に反対する運動が(女性の地位を向上するための再分配やその他の社会政策ではなく)民族的マイノリティや移民、貧困層、クィアやトランス、性労働者たちに対する国家の暴力を強化してきた歴史について考察した本。
議論そのものはこれまでアメリカの活動家や研究者の本でさんざん読んできたものと類似しているのだけれど、フランスの植民地主義や自民族中心主義に基づいた具体的な事例などについてはとても勉強になる。フランスにおける性暴力への取り組みが非白人や非キリスト教徒の移民男性を危険な存在として扱い、かれらに対する暴力を通してフランス人女性を守ろうとしている一方、たとえばホテルで部屋の清掃をしている移民女性たちが主に白人フランス人の顧客によって頻繁にセクハラされたり性暴力をふるわれる問題などが見逃されていることや、非白人移民の性労働者やホームレスの人たちの存在がフランス人女性に対する危険として国家による暴力を通した排除の対象になることなど、「(白人フランス人)女性の安全」を口実とした政府の暴力が、女性に対する暴力の大半を実際に行っている彼女たちの夫や父親や兄弟、あるいは職場の同僚ではなく、非白人の移民やかれらの子孫に向けられることが、これでもかと示される。
短いながら内容がたっぷり詰まったいい本なんだけれども、それに加えてちょうど2023年7月現在、フランス生まれのアルジェリア移民の子どもである少年が警察に射殺された事件をきっかけにフランス全土で被害者と同世代のアフリカ系の若者たちが抗議運動を展開し、一部で暴動や略奪が起きており、白人メディアの報道や白人政治家たちの発言に代表される一面的な「暴力」についての考え方がフランスにおける白人至上主義や植民地主義と深く結びついていることを意識し、かれらの視点を鵜呑みにしないためにも、いま読まれるべき本。