Evan Drellich著「Winning Fixes Everything: How Baseball’s Brightest Minds Created Sports’ Biggest Mess」

Winning Fixes Everything

Evan Drellich著「Winning Fixes Everything: How Baseball’s Brightest Minds Created Sports’ Biggest Mess

メジャーリーグ球団ヒューストン・アストロズがワールドシリーズ制覇した2017年などのシーズンで試合中に対戦相手のサインを盗みゴミ箱を叩く音などを使って選手に伝えていたスキャンダルを暴いたスポーツジャーナリストがその背景などを詳しく書いた本。

Walt Bogdanich & Michael Forsythe著「When McKinsey Comes to Town: The Hidden Influence of the World’s Most Powerful Consulting Firm」でも触れられていたように、アストロズに効率主義の文化を持ち込んだのはマッキンゼーの元コンサルタント。ジェネラルマネージャに就任した元コンサルタントは、まずコストカットのために給料の高い選手を放出し、次の年のドラフトで良い選手を取るためにわざと成績を落とすような運用まで行った(MLBでは成績が悪い球団から順番にドラフト指名することができた)。

さらに他球団でも行われていたデータ分析に基づいた相手バッターごとの守備シフトの極端な変更や、代理人がいる選手と代理人を通さずにコンタクト、マイナー選手にバイオメトリクスセンサーを付けてのデータ収集とそれを利用して選手を安く買い叩くなど、Bruce Schneier著「A Hacker’s Mind: How the Powerful Bend Society’s Rules, and How to Bend Them Back」がハッキングと呼ぶものを含め、合法・非合法まじえてさまざまな手法でコストを削減し利益を増やすような手法が取られた。会場に取り付けられたカメラを使って相手選手のサインを盗みそれを試合中の選手に伝えるといった不正が行われたのもその一環だった。

ただアストロズだけがそういったことを行っていたのかというとそうでもなく、ほかの多くの球団でも似たようなスキャンダルが採算発覚している。違うとすればアストロズの不正がほかより大規模で極端だったという程度の違いだけれど、実際にそれでアストロズが優勝した以上、より巧妙なかたちで不正を行おうという球団は出てくるはず。したがってアストロズで不正に関わっていた人たちが追放されても今後も不正は続くだろう。ちなみに2017年に続いて2022年にもアストロズはワールドシリーズ制覇を成し遂げたのだけれど、今度は不正をせずに優勝したのか、それともたまたままだ不正がバレていないだけなのか、判断できない。

ちょうどMLBでは今シーズンからルールが一部変更されていて、ベースが少し大きくなるとともに、投手が走者のいる塁に牽制球を投げる回数や投球までの時間が制限されるなど、打者に有利になっている。「マネーボール」以来、打者ごとに守備シフトを変更することが一般化したために、打者が球をフィールドに打ってもアウトになる確率が高くなってしまい、それならと多くの打者が野手によって邪魔されないホームランを狙うようになったため、ホームランと三振と四球が異常に増え、野球のおもしろさが激減してしまった。らしい。知らんけど。このあたりはMicael Dahlen & Helge Thorbjørnsen著「More Numbers Every Day: How Data, Stats, and Figures Control Our Lives and How to Set Ourselves Free」でも論じられていた、数値を重視したために数値にならない価値が失われた例。

どーでもいい話だけど、実はわたし野球のことは興味がないのだけれど、たまたま講演をするためにヒューストンを訪れたのでヒューストンに関連したこの本をヒューストンの電車の中で読んでいたんだけど、ふと気づいたら周囲をアストロズのグッズを身に着けた大勢のアストロズファンに囲まれていた。ちょうどその日試合があったらしい… 焦った。