Edward Glaeser & David Cutler著「Survival of the City: Living and Thriving in an Age of Isolation」

Survival of the City

Edward Glaeser & David Cutler著「Survival of the City: Living and Thriving in an Age of Isolation

都市経済学の第一人者と、オバマ政権にも参加した医療(厚生)経済学者がコロナ後の都市再建に向けて書いた共著。前半はパンデミックの歴史をたどりつつ、人が密集する都市がどうやってパンデミックと戦ってきたのかを紹介。産業革命以前は人口は各地に散らばっていたのでそんなに一気に感染症は広まらなかったし、たまに大流行が起きて人が大勢死んでも、農耕社会においては土地が財産だったため、むしろ人口あたりの土地が増えて人々はより裕福になった。ところが都市に人口が集中すると感染症の温床になり、パンデミックは労働市場の崩壊を伴うことになってしまう。下水道整備や医療の改善、そして感染症が起きたときの移動規制や隔離など、政府の強権的な行為によって感染症対策が行われるようになった。

今回のSARS-CoV-2パンデミックでは人やモノが国際的に行き来する現代における各国政府による感染症対策の限界が明らかになったので、各国の利害が交錯し強権的な手段を取れないWHOにかわってあらたな国際機関が必要だというのがこの本の一番大きな主張。その国際機関は参加国に感染症を減らすための国際的なルール、たとえば人と野生動物との接触を減らしたり、感染症の発生を確実に他国に通知し、素早く国境を超えた移動を停止するなどを強いる力を持つべきだとする。そのために必要な費用については、今回のような国際的なパンデミックが起きた場合の経済的損害に比べたら問題にならない程度なので、ルール厳守を条件として先進国から途上国へ積極的に出資すべきだとも。コロナによるリモートワークやリモートミーティングの一般化については、パンデミック終了後も一部でリモートワークが続くであろうことを認めつつ、それでも都市の優位性は変わらない、リモートワークが増えても労働人口が同時に増えれば都市の空洞化はおこらない、と主張。

ここまではいいのだけれど、本の後半になり、コロナと同時に2020年に大きな問題となった警察による黒人への暴力や都市における格差の問題になると、経済学の視点からしか問題を見ない弱みが噴出。とくに「defund the police」(警察予算を削減しろ)と訴える運動について、文字通り単純に警察予算を減らすという主張だと解釈して、「警察をより良くするためには予算を減らすのではなく増やさないといけない」と繰り返し主張するのは、典型的な藁人形論法。BLM運動は、警察予算を削減するだけではなく社会における警察の役割を減らし、よりコミュニティに根ざした公共安全に向けた取り組みにお金を出そう、という主張をしているのだけれど、著者らは公共安全=警察という前提を疑おうとしない。ジェントリフィケーションや教育をめぐる主張についても、経済学の視点からはこういうことが言える、という意味では分かるのだけれど、同時に実際の政策としてはそんな単純な話ではないと感じる。