Dean Spade著「Mutual Aid: Building Solidarity During This Crisis (and the Next)」

Mutual Aid

Dean Spade著「Mutual Aid: Building Solidarity During This Crisis (and the Next)

2020年、コロナ禍によって起きた経済的・社会的な危機に対して、政府による救済措置が不十分だったり、移民や性労働者など一部の人が対象外とされ届かなかったりしたなか、民間における相互扶助(ミューチュアルエイド)の取り組みが注目された。本書はそうした取り組みに、政府の不備を補完するだけでなく、不備を生み出す社会的な仕組みを変えていこうとする革命的な政治運動の歴史を重ね、そうした運動の過去の経験を元にした教訓を伝える。著者はシアトル大学の法学准教授で、かつてニューヨーク市で貧しいトランスジェンダーやノンバイナリーの人たちの法的支援をする団体(シルビア・リベラ法律プロジェクト)を設立したトランス男性活動家。

著者は相互扶助は昔からある、社会運動の一番一般的な入り口だとして、例としてブラックパンサー党が貧しい家庭の子どもを対象としてはじめた朝ごはんの無償提供や、麻薬使用者による注射器の使い回しでHIVが広まっていたときに一部の活動家がはじめた注射器の無償提供・使用後の回収など、さまざまな実例を挙げる。それらの取り組みは、困っている人たちに直接支援を届けると同時に、どのような社会の仕組みによって多くの人が困っているのかという認識を広め、その改革に向けて人々を組織化に繋げてきた。当時FBIがブラックパンサー党の朝ごはん提供プログラムを脅威と捉えたのは、それが政府の不備を補完するのではなく、その不備を生み出した政府に対する不満や反感を政治運動に繋げることに成功していたからだ。

本書では相互扶助と慈善行為や福祉サービスとの違いや、相互扶助のグループを運営していくうえで起き上がりがちな問題やその対処法など、具体的な例を挙げながら政治運動の一環としての相互扶助がどのように行われてきたか、どのように失敗し、どのようにそれを乗り越えようとしてきたかが簡潔に説明されている。本としては短めだけれど、相互扶助の取り組みをこれからはじめようとする人も、すでにはじめている人も、読んで仲間うちで議論しておくとよさそう。

いちおう情報開示しておくと、わたしは著者がシルビア・リベラ法律プロジェクトをはじめたころニューヨークを訪れてかれのアパートに泊めてもらって以来10年以上の知り合いで、かれがシアトル大学に就職してからはさまざまな運動で関わったり、かれの授業に招かれてゲストレクチャーしている関係。この本を読んでいるとき、「まったくその通りだなあ、でも実際それってわたしが関わっている運動では難しいよなあ、ダメだなあ」と思ったりもするのだけど、ふと「そういえばその運動にはディーンも関わってるじゃん!難しいのはわたしだけじゃないんだ!」と思い出したり。