Anthony J. Badger著「Why White Liberals Fail: Race and Southern Politics from FDR to Trump」
米国南部の政治について研究してきたアメリカ史家が、リベラルな民主党の白人政治家たちがどうして南部で支持を広げられないのか論じた本。奴隷制に遡る人種差別は一貫して南部の政治文化の背後にあり、そのなかで「州の権利」というレトリックは古くから南部の政治家によって主張されてきたけれども、南部は決して「大きな政府」を一貫して否定してきたわけではなかった。たとえば大恐慌のなかニューディール政策のもと設立されたテネシー川流域開発公社(TVA)は失業者に職を与えただけでなく水力発電による発電力を大幅に増やした結果、地域の生活環境が改善されただけでなく工場などの誘致に繋がった。
ニューディールの成功と第二次世界大戦の勝利により、連邦政府は人々からの信頼を勝ち取った。国のために命を張った黒人兵士たちが帰国して公民権運動をはじめると、南部のリベラルな白人政治家たち(たとえばゴア元副大統領の父親のゴア上院議員ら)は教育政策や福祉政策を通して黒人コミュニティの状況を改善しつつ、ゆるやかに人種間の経済格差を解消しようと考えた。ところが教育における人種隔離を禁止する1956年の最高裁判決と、それを受けて経済的な利益よりも人種隔離の撤廃そのものを要求する運動が勢いを増したことで、リベラル白人たちの目論見は破綻する。かれらが肯定していたのは、積極的な経済政策によって黒人や貧しい白人たちを支援する「大きな政府」であって、学校や公共施設での人種隔離を撤廃するようなそれではなかった。
南部の白人たちにとって連邦政府が「貧しい人々や地域を支援してくれるもの」から「自分たちの文化のあり方や生き方を指図するもの」に変質したのはこの頃。連邦政府に対する反発は南部を覆い尽くし、リベラル白人が目指したゆるやかな変革は頓挫する。それに対して南部のリベラルな白人政治家たちの多くは、人種隔離政策がどうして間違っているのか正面から主張するのではなく、その話題を避けつつ福祉拡充などリベラルな経済政策だけを主張したり、あるいは人種問題についてどっちちかずの発言を繰り返した。人種隔離政策を存続させようとする自治体に圧力をかけて最終的にそれを終焉させたのは、公民権法を成立させた民主党ではなく、公民権運動とそれに対する弾圧が報道されることで南部の経済が停滞し損失を出していた共和党系のビジネスマンたちだった。
2016年のトランプ当選以降、民主党側の評論家らが「リベラルは人種差別についてごちゃごちゃ騒ぎすぎだ、人種に関係なく貧しい人たちみんなを救うような政策を推進したほうが、多くの貧しい黒人たちも助かるし貧しい白人の反発も浴びないので良策だ」と繰り返し主張しているけれども、この本によるとそれこそ南部でリベラルな白人政治家たちがこれまでずっと行ってきた、そして失敗してきたことだ。もし、公民権運動の時代にリベラルな白人政治家たちが短期的な不利益を受け入れて正面から人種問題に取り組んでいたら、いまとはどう違う展開になっていただろうか。
南部ではいまアメリカ生まれの非白人移民の子孫の増加や北部や西部からの人口流入、教育水準の上昇などにより、人口上の大きな変化が起きている。それらの変化は要するに共和党支持層の人数が減り民主党支持層の人数が増えることなので、ここ何度かの選挙のたびに「今年こそ」テキサスやフロリダなど南部の州が民主党側に移行する、とリベラルは期待してきたが、実際はそうなっていない。むしろマイノリティの参政権を奪うような制度改悪や選挙区のジェリマンダリングが進み、一時的には共和党側がより有利になってすらいる。人口上の変化による南部のリベラル転向は可能性としてはありえるけれど、決して予断を許さない、と著者は言っている。