Willard Sterne Randall著「The Founders’ Fortunes: How Money Shaped the Birth of America」
アメリカの独立と新憲法制定を成し遂げた「建国の父」と呼ばれる指導者たちの個人的な経済的利害がどのように独立戦争の展開や新国家建設に影響したか究明しようとする本。著者はジョージ・ワシントン、トマス・ジェファーソンなど建国期の伝記や歴史をテーマにした本で知られる作家。独立宣言や憲法制定会議に参加した指導者たちの多くが資産家でなおかつ奴隷所有者であり、、憲法制定の過程において奴隷制の存続を保証するための妥協があったように北部と南部それぞれの経済的利害が関係していたことは明らかだけれど、本書では主要な指導者たちの経済的な状況を分析することでかれらの実際の経済的利害が細かく分かれていて、それが建国におけるさまざまな論争に影響していることが示されている。
とはいえ「悪辣な資産家の指導者たちが強欲に自分たちの資産を増やすために社会全体を振り回した」というほどの話でもなく、もし敗北していれば反逆者として財産を没収されたうえで処刑されるのが確実という大きなリスクを背負ったわりに、戦争によって貿易が停止されたり戦費を借金したせいで信用が崩壊したり一儲けを狙った土地への投機で大金を失ったりして、多くの「建国の父」たちは財産を失ったらしい。まあそんなにうまくいかないよねという話。裏から政治を動かして大儲けする黒幕なんてのはいなくて、せいぜい降って湧いたチャンスに便乗してずる賢く儲けようとしたケチな小金持ち程度。「建国の父」たちはそれほど偉大でもないし、それほど(奴隷制度や先住民虐殺の責任は大きいとはいえ当時の個人としては)悪辣でもない、普通の人たちだったという印象が強くなった。