Tricia Rose著「Metaracism: How Systemic Racism Devastates Black Lives―and How We Break Free」

Metaracism

Tricia Rose著「Metaracism: How Systemic Racism Devastates Black Lives―and How We Break Free

過去と現在における教育・住居・経済・医療・防犯その他のさまざまな政策が複雑に絡み合い相互に影響しあって作り出されている、白人の優遇と黒人に対する囲い込み・簒奪・処罰の総体としてのメタレイシズムについての本。厳密には使い分けているようなのだけれど大筋では制度的レイシズム、システミックレイシズムとも呼ばれるものと同じ。

人種による教育機会の不均衡を考えるうえでは、教育予算を地域の住宅の価値から算出される住民税から捻出する、したがって地域によって子ども一人あたりに当てられる教育予算が地域によって大きく異なる税制度の問題は無視できないし、その背景には白人以外の人々が住むことができる地域を制限する過去の政策や、現在も続く住居差別による人種による住居隔離の実態や、黒人が住む地域の地価が不当に低く見積もられる仕組みも関係してくる。高速道路の建設などを理由とした黒人居住地域の没収や、環境汚染を起こす産業が黒人居住地域に集中させられること、黒人に対する就職差別や金融機関による差別によって黒人たちが条件の悪いサブプライムローンによって住宅を買わなければいけない立場に追い込まれ、不況が起きた際には優先的に解雇され持ち家を失う黒人が多い事実など、それぞれの問題は個別に存在しているのではなく複雑に絡み合ったうえで黒人から生活と財産を奪っている。そういう状況があるのに、たとえば黒人の子どもが受ける教育の質を向上させるためと称して共通テストの点数が悪いクラスの教師を解雇したり学校を閉鎖したり、あるいは学校選択制としてチャータースクールを導入するなどの対策が実施されるが、複雑なシステムの一部だけを改善しようとしても効果は得られない。

本書はさらに、フロリダ州で自警団員だったジョージ・ジマーマンによる黒人少年トレイヴォン・マーティン氏の殺害や、娘たちを安全で質の高い公立学校に通わせるために住所を偽った罪で投獄された黒人女性ケリー・ウィリアムズ=ボーラー氏、そしてミズーリ州ファーガソン警察により殺害された黒人少年マイケル・ブラウン氏の3つの事件をケーススタディとして、これらの事件が個別の状況でたまたま起きたものではなく、複数の制度が複雑に絡み合った結果起きたものであることが説得的に示される。