Stacy Manning & Katy Faust著「Raising Conservative Kids in a Woke City: Teaching Historical, Economic, and Biological Truth in a World of Lies」
「ウォークな(本来は人種差別などに対して敏感な、という意味で、この文脈では進歩派を揶揄する意味)都会で保守的な子どもを育てるためには」という内容の本。表紙のイラストを見たところどこからどう見てもシアトルのスカイラインなので興味を持って読んだけど、案の定著者はシアトル郊外に住んでた。
子育てについて語る本としては、まっとうな部分も多い。たとえば、保守派の親としてはクィアやトランスの存在や人種差別や妊娠中絶をめぐる論争、あるいはポルノグラフィなどの影響から子どもを守りたいのは当然だが、放っておけばウォークな教員やクラスメイトからそういった話を聞いて影響を受けてしまうので、そうなる前に親がきちんと話をすべきだ、という部分は、「ウォークな教員」を悪者にして子どもをクィアやトランスになるように「グルーミング」している、とか白人や男性を嫌うように仕向けている、みたいな言いがかりはともかくとして、子どもを悪影響から守り抜くことはできないから自分で対処して判断できる力を付けさせるべきだ、という意味ではまっとうだと言える。
また、年齢や子どもの発達段階に応じて、はじめは(かれらが思うところの)真実だけを伝え、子どもの成長にあわせてかれらが見聞きするような「ウォーク」な議論についても触れさせたうえで対抗する方法についても教えていき、それによって高校生になる頃には自分で判断できるようにするべき、とか、たとえば学校でトランスジェンダーやノンバイナリーを自認する子どものアイデンティティを尊重するよう言われたとかどんなに腹立たしいことがあっても子どもの前で怒りで我を失うな、そんなことをすれば親の反応を恐れて子どもが学校であったことを相談できなくなる、など、なるほどと思える。
著者らは歴史的・科学的な「真実」はことごとく保守派の側にあり、「ウォーク」な連中は真実に基づいた議論ができないから感情論やキャンセルカルチャーに頼っているのだ、と言っているけど、もちろんそんな簡単な話ではない。たとえば本書で例としてシアトル近辺にもともと住んでいた先住民たちが権利の回復を求めて運動を起こしていることについて、かれらの主張はほかの先住民部族から反対されている、ただの先住民同士の抗争であり正当性はない、と決めつけているのだけれど、カジノ利権などをめぐって既に権利が認定されているほかの先住民部族との対立があるのは事実だけれど、協定違反により土地を奪われ追放された歴史的事実を打ち消すものではない。
妊娠中絶が女性と胎児の人権を侵害するものである、という議論のなかに「中絶によってたくさんの子どもが殺されていなければ、置き換えはいまほど進んでいなかった」と当たり前のように白人至上主義者の主張である「リプレースメント理論」をすり込ませてきたり(リプレースメント理論は女性や胎児の人権の議論と関係ない)、トランス女性水泳選手をわざわざ古い名前で呼んだり(仮に彼女が女性として競技することに反対するのだとしても、名前まで彼女の実際の名前とは異なるもので呼ぶ必要はない)外見について揶揄したりと、事実に基づいて理性的に話すべきと言いながらただのヘイトが入り込んでくるのをやめられない。
まあ著者たちには保守的に育った子どもがたくさんいるみたいなので、かれらのうち何人が大人になってクィアやトランスだとカミングアウトしたり、そうでなくてもリベラルやプログレッシヴになるのか、いまから楽しみではある。