Sheryll Cashin著「White Space, Black Hood: Opportunity Hoarding and Segregation in the Age of Inequality」

White Space, Black Hood

Sheryll Cashin著「White Space, Black Hood: Opportunity Hoarding and Segregation in the Age of Inequality

現代アメリカにおいて居住地域の人種的隔離がどのような格差をもたらしているかについて、教育・医療・交通・安全などの側面から示した本。著者はジョージタウン大学の法学者。第二次大戦後のアメリカで、黒人の居住地域が制限されただけでなく政府によって野放しにされた悪質業者に搾取されるいっぽう、白人がさまざまな助成金や免税措置などの政策によって住宅を通した資産形成を達成し、現在まで続く経済格差が固定されたことはRichard Rothstein著「The Color of Law」やKeeanga-Yamahtta Taylor著「Race for Profit」に詳しいけれど、本書はそういった政策によって意図的に生み出された格差がどのように維持されているかを説明する。

居住地域の分離が政策によって後押しされたものであるように、居住地域の境界の維持や教育や職などの経済的な機会の囲い込みも、それを促す政策によって支えられてきた。また同時に、居住地域の分離により、黒人が住んでいる地域の学校に十分な予算が配分されなかったり、黒人の住んでいる地域において警察が市民に対して攻撃的な態度を取っていても問題とされにくいようになっている。重要なのは人々が人種に関係なく平等の権利や機会を持つことで、人々がどこに住むかまでは指図できないし、住居の分離そのものは問題ではない、と思いがちだけど、住居が分離されていることでさまざまな機会が囲い込みされるだけでなく、貧困や犯罪が「黒人特有の問題」と決めつけられ、福祉行政による切り捨てや警察の暴力が横行する原因となっている点は重要。

本の終盤で地理的な分断による不平等に対抗するためのさまざまな取り組みが紹介されている。そのなかには貧しい地域の住民に助成金を出して「機会の豊富な」地域に移住するのを支援するような「住居の分離」に対する直接的な取り組みもあるけれど、教育予算の調達方法や交通機関設置の優先順位の変更など政府のあり方を問うものもある。成功している例としてしばしばシアトル市やキング郡の例が出てくるのは、一住民として「そんなにうまくいってはいないけどなあ」という感想を抱いてしまうのだけれど、取り組みをはじめている、というだけでも紹介する価値があるとされているのかもしれない。いや成功させようとがんばってますけど!