Robby Soave著「Tech Panic: Why We Shouldn’t Fear Facebook and the Future」

Tech Panic

Robby Soave著「Tech Panic: Why We Shouldn’t Fear Facebook and the Future

リバタリアン雑誌Reason誌の編集者による、左右両派によるソーシャルメディア企業規制論に反論する本。左派に対してはロシアなど外国勢力による選挙介入やソーシャルメディアを通したフェイクニュースの拡散や白人至上主義など極右勢力の浸透はソーシャルメディアを脅威に感じるオールドメディアによって過大評価されていると指摘しつつ、右派に対してはソーシャルメディアの「リベラル偏向」はオールドメディアよりはよっぽどマシであり私企業への規制強化は伝統的な保守主義に反すると説得する。共和党のジョッシュ・ハウリー議員と民主党のエリザベス・ウォレン議員という両極端の政治家がそれぞれ別の方向からソーシャルメディアの規制を訴えていることを対比させているけれど、トランプやその他の保守政治家はかれらが撤廃を目論む通信品位法230条を誤解している、より正しく理解すべきだとしながら、ウォレンらリベラル派政治家は「規制が保守派の発言力を減らすことを正確に理解している」として保守の読者に再考を促すあたり、リベラルの読者ははなから相手にしていない感じ。

ソーシャルメディアが現実の暴力や差別を起こす危険や未成年のセルフエスティームに与える悪影響について、著者は一貫して「大したことない、むしろ良い影響が多い」と主張するけれど、根拠とされるソースが一方的な気がする。ミャンマーで起きたロヒンギャ虐殺におけるフェイスブックの責任については「An Ugly Truth」などにも書かれているけれど、ソーシャルメディアがない時代にもユダヤ人やアルメニア人の虐殺があった、というのはちょっと無理がある。ソーシャルメディア「だけが」原因だなんて誰も言ってないし。唯一中国企業が運営するTikTokについては国家の安全に関わるので監視が必要だと著者は言うんだけど、米国の安全だけ守ってロヒンギャやその他暴力にさらされている国内外のマイノリティの安全は守らなくていいんだろうか。

あと政府がフェイスブックやグーグルなどの企業に対して独占禁止法を適用すべきかどうかという問題で、著者はベル電話会社やスタンダードオイルの分割も必要なかったと言うのだけれど、そこまでさかのぼって独占禁止法自体を疑うのであればそりゃそうなるだろうなあとしか。それらの分割が行われた当時と違い現在では独占禁止法は寡占による新規参入や市場競争の阻害そのものではなく「独占が個々の消費者の不利益につながる場合」のみ適用されることになっており、グーグルやフェイスブックやアマゾンによって消費者の利益は失われていない、と主張している。でも「個々の消費者の不利益」のみに対象を絞ったのはレーガン政権以来の規制緩和によるもので、ウォレン議員らはふたたび市場競争の阻害による社会的弊害も対象に含むべきだ、と主張しているのだから、「現行法でこうなっている」という事実を根拠に法改正を求める声を否定するのはおかしい。

わたしはずっと性労働者運動に関わっているのだけれど、性的人身取引抑止を目的として推進されるさまざまな法律や規制が実際の人身取引を止めるのにはまったく役に立たないだけでなく性労働者が置かれた状況を悪化させるだけに終わることについてはReason誌が継続的に取り上げており、本書でも政府による規制の問題の一つとして取り上げられている。リベンジポルノや未成年の性虐待動画をはじめ違法にアップロードされた動画がごく最近まで放置されてきたPornHubのビジネスモデルと、性労働者個人がコンテンツを管理してファンとの交流を通して稼ぐことができるOnlyFanのモデルとの比較は良い。なんでもかんでも「ポルノ」でひとくくりにされがちだけれど、労働者に与える影響は全然違う。ただまあもちろん、Reason誌が代弁するリバタリアンの目的は政府の規制を止めることであって性労働者の自由や安全ではないので、基本あまり信用せずに可能な部分はお互い利用しあってる感じ。