Regan Penaluna著「How to Think Like a Woman: Four Women Philosophers Who Taught Me How to Live a Life of the Mind」

How to Think Like a Woman

Regan Penaluna著「How to Think Like a Woman: Four Women Philosophers Who Taught Me How to Live a Life of the Mind

哲学を専攻し博士号を得た著者が、白人男性が学生と教授の双方の大多数を占めるなか哲学を学ぶことの困難と向き合いつつも、歴史上の女性哲学者たちの人生と思想を掘り起こし紹介する本。

女性哲学者は少ないのはどうしてか、女性は哲学に向いていない理由は?」といった議題が授業のなかで議論される、教科書に女性哲学者はほとんど登場せずあったとしても最後の方に「フェミニズム哲学」といったかたちで数ページだけ、など分かりやすいものだけでなく、女性が少ないために肩身が狭い思いをする、意見を言っても無視され同じことを言った男性の手柄になる、クラスルームの外でのアドバイスを受けられなかったり人脈を紹介してもらえない、など哲学において女性の学生や研究者が経験する障害は多い。そうしたことの積み重ねにより、そのうち著者を含む多くの女性たちは自信を失い、自分の能力や知性にまで疑いを抱かされてしまう。

そういうなかたまたま見つけた17世紀の女性哲学者Damaris Mashamの論文をきっかけに、著者は17世紀から19世紀にかけての女性哲学者たちの研究をはじめる。本書でとくに詳しく取り上げられるのは、Mashamに加えてMary Astell、Catharine Cockburn、そしてMary Wollstonecraftの4人。ヴァージニア・ウルフも注目した彼女たちだけれど、わたしも正直知らない人ばかりで、『女性の権利の擁護』を書いたウォルストンクラフトだけは辛うじてしってたけど正直むかし『女性の権利の擁護』を女性学の授業で読まされた以外に読んだことはないし、一般論としても女性学やフェミニズムの議論以外では哲学の授業では扱われない。

彼女たちは当時それなりに恵まれた環境に生まれた女性たちで、そのおかげで哲学に触れることができたのだけれど、本格的に学ぶ機会も与えられず、哲学者として生活するのは困難だった。かつての西欧では哲学者は思索に集中するために独身を貫くのがカッコいい、といった風潮があったけれども、それを可能とするような大学の職を得られるわけでもなく、女性哲学者たちは極貧生活か男性との結婚を選ばなければならなかった。結婚すると自分が書いた本が「夫に手伝ってもらったのだろう」と言われるし、夫のキャリアを優先させられて思うような活動ができなくなることも。

著者は彼女たちの経験を紹介しつつ、大学に進学することも結婚せず就職することも当時に比べればはるかに自由な現代に生まれた自分が彼女たちのように女性差別を言い訳にしてもいいのかと悩みつつ、一見男女平等が達成されたかのように見える現代でも女性が哲学を学ぶことを困難にしているさまざまな事例を自身の経験から紹介する。男性の同級生たちは卒業論文を完成させるために何度も真摯なアドバイスをもらえたのに彼女はほとんどアドバイスをもらえなかったり、彼女が掘り起こした歴史上の女性哲学者についてのシンポジウムを彼女の男性指導教官が開いたのにそこに彼女を呼ぼうとすらしないとか、ありそうだなあという話が続々。

これまで知らなかった女性哲学者たちについて、彼女たちの差別的な考えなど良くない点も含めて、まだフェミニズムの運動が起きるまえに生きた彼女たちがどのようにして自分だけでなくほかの女性たちの機会も広げようと戦ったのかなど知れてよかった。