Raphael G. Warnock著「A Way Out of No Way: A Memoir of Truth, Transformation, and the New American Story」

A Way Out of No Way

Raphael G. Warnock著「A Way Out of No Way: A Memoir of Truth, Transformation, and the New American Story

2020年の補欠選挙で当選し、今年初の改選をむかえるラファエル・ワーノック上院議員が書いた本。ジョージア州からは、というより南北戦争で南軍側についた州から初めて選出された黒人の上院議員で、同じジョージア州で同時に当選したジョン・オソフ議員とともに民主党が上院で多数派を奪還するのに貢献した。貧しい牧師の家に11人の兄弟姉妹とともに育ち(そのうち一人は誰も傷つけていないのに人種差別的な刑事司法制度のターゲットとされ終身刑の判決を受け服役していた)、もともと宗教的だったとはいえ高校生のときにキング牧師の演説の録音を聞いてさらに感化され、自身も牧師の道に進む。当時キング牧師に憧れるあまりに試しにやらせてもらった教会での説教でキング牧師のスタイルを模倣した結果、「キング牧師の再来の若いやつがいる」と騒ぎになった話とか、なにそれかわいい。

神学校を卒業していくつかの教会の牧師を務めたあと、かつてキング牧師が率いていたアトランタの教会の牧師として採用される。その直後にニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナ災害では、水害によってニューオーリンズの黒人たちが全国各地に避難して散らばっていた(黒人たちが居住していた地域は水害に弱く、また防災措置も取られていなかったため)にもかかわらず現地での選挙が強行されようとしていたので、ニューオーリンズから避難してきた黒人たちが自分たちの街の再建に意見を出せるようにと選挙への参加を支援する活動が行われた。著者の教会はアトランタに避難していた多数の避難民たちが選挙に参加できるような取り組みに関わり、そこから政治への関与が強まる。

その後、白人警察官を殺害したとして死刑判決を受けたけれど一貫して無罪を訴えており有罪とする証拠に疑問が多かったジョージア州の黒人男性トロイ・デイヴィスの支援活動をし、またかれが死刑執行されるまでかれに牧師として寄り添ったり、またオバマ政権が成立させた健康保険改革への参加を拒否して州の住民たちの健康をないがしろにしていた州の政治家たちへの批判を行う。またステイシー・エイブラムスらがはじめた、それまで選挙に参加してこなかった人たちに有権者登録と投票を呼びかけるニュー・ジョージア・プロジェクトにも参加し、彼女の州知事への立候補も支援した。2020年に上院に補欠が生まれると周囲から求められ立候補を決意する。

かれが選挙戦をはじめるとほぼ同時にコロナ禍が猛威をふるい、かれが想定していたように有権者との直接対話を重ねることが難しくなった。またジョージ・フロイド氏の殺害をきっかけに全国でブラック・ライヴズ・マター運動が盛り上がるなか、アトランタで黒人男性レイシャード・ブルックス氏が警察によって射殺される事件が起き、著者はリモートや動画で選挙を続けるなか牧師として遺族を支えた。コロナと人種差別の二つのパンデミックが人々の生活を揺るがすなか、著者は牧師であり社会運動家である自分が上院議員になる思いを強くした。

ジョージア州決選投票が行われ著者とジョン・オソフが当選した2021年1月5日はアメリカの希望であり、そして暴徒が民主主義を否定しようと議事堂を暴力的に占拠し下院議長や副大統領の命が危険に晒された翌日1月6日はその正反対だ、と著者は言う。そしてそれらのどちらか一方がアメリカの真の姿だというわけではなく、どちらも同時に存在している。1月6日に象徴されるような民主主義や人種平等への脅威を警戒しつつも、かれやステイシー・エイブラムスらが進めてきたような、より多くの人たちが自分たちの未来を決める選挙に参加する未来、より多くの人たちが必要な医療や教育を受けられるような未来を人々が志向するよう呼びかけて本書は終わる。

今年の11月に再選を控えた現職政治家の本で、まあそんなに極端なことは書いてなくて当然だけど、キング牧師の教会だけに故ジョン・ルイス下院議員をはじめ目の肥えた人が集まる前で毎週説教しているだけあって、レトリックや演説はめちゃくちゃうまい。うっかり感動してしまう。2020年の選挙の公開討論でも安定感がすさまじく、共和党候補とのレベルの違いが明らかだった。宗教家が政治に進出することを不安に感じる人もいるけれど、あるコメンテータがかれのことを将来の大統領候補と言っていた(その人は2024年の大穴と言ってたけど、オバマじゃないんだからさすがにそれはなさそうで、あるとしたら2028年)のも納得。