Paula Stone Williams著「As a Woman: What I Learned about Power, Sex, and the Patriarchy after I Transitioned」

As a Woman

Paula Stone Williams著「As a Woman: What I Learned about Power, Sex, and the Patriarchy after I Transitioned

保守的な教会の家庭に生まれ、自身も多くの教会を抱えるグループを長年率いたあと、トランスジェンダー女性としてカミングアウトして解雇された著者。わたしはこの本を読むまで知らなかったのだけれど、もともと男性として生きていたときには有名な保守派の牧師として知られていて、女性として生活するようになってはじめて自分がどれだけ白人男性としての特権に守られてきたか理解した、的な講演をTEDトークでやってバズった人らしい。

自分が男性として生きていた時はこんなこと気づかなかった!という話を聞くと、「いやおまえ直接の経験がなかったとしてもそれは鈍感すぎるだろ、それくらい気づけよ、てか周囲の女性が言っていることに耳を貸せよ」って思うんだけど、まあ過去に鈍感だったからこそ、現在進行系で鈍感な男性に声が届くかもしれない、というのはそうだろうし、だから周囲の鈍感な男性に日頃から無視されている女性たちが彼女のメッセージに期待してしまうのもわかる。クソむかつくけど。あと、トランス女性としてカミングアウトして解雇されたあと、あらたに創設した新しい教会で、共同設立者の女性牧師とのあいだで揉めてその人が辞任してしまうのだけれど、その描写からはどう考えても著者の権威的なふるまいが理由なように思えるのに、本人に自覚がなく、自分が「強い女性」だから受け入れられなかった、みたいに思っている感じ。

本書では再三「女性の敵は女性」的な主張が繰り返され、女性は足の引っ張り合いをするのではなく支え合うべきだ、的なことが書かれているのだけれど、自分は常にほかの女性を支えているのにほかの女性は自分を引きずり落とそうとしている、という認識に疑問を感じる。トランス女性だから反発されたという側面もなくはないだろうけど、彼女自身の意識しない行動が原因で周囲の女性の反発を招いている部分が大きいように思う。男性が周囲の女性に対して権威的にふるまうのはあまりに自然化されていいてそれほど注目を集めないけど、女性が同じ行動を取ったら目立つし余計に反発を集める、という要因が働いているような気がする。彼女がトランスジェンダーとしてカミングアウトした際の周囲の反応も、妻や娘など周囲の女性が彼女の気持ちを最優先してケアしようとしたのに対し、息子や仕事関係の男性たちは厳しく反発していて、そんなところにもセクシズムの影響があるよなあって思った。まあそういう感想を抱ける程度に、本音で書かれた本ではあると思った。

ちなみに保守系教会の牧師になった息子が父親への反発を経て信仰的にも成長した話は、息子が「She’s My Dad」という本として出版している。先のTEDトークの翌年、その息子とともにふたたびTEDWomenでも登壇してた。てゆーかさ、女性として自分が経験した性差別について発言してもふつーこんなプラットフォームはもらえないわけで、トランス女性がトランス女性としてではなくて「男性と女性の両方の立場を経験した女性」だからというふれこみでプラットフォームを与えられる状況はどうかと思うんだけど。