Paul Gottfried著「Antifascism: The Course of a Crusade」
オーストリア学派に近い保守派政治哲学者によるアンティファ批判の本。著者は先にファシズムの歴史についての本も出していて、これはその続編とも言えるもの。イタリアファシズムの発足からナチズムへの変節を経たファシズムの歴史とともに、それに対抗する第二次大戦中のヨーロッパの反ファシズム、そしてナチスを逃れてアメリカに移住したフランクフルト学派の学者たちの思想を追うあたりはそこそこおもしろいのだけれど、第二次大戦後のドイツが自虐史観によって「ホロコースト産業」の言いなりになっている、みたいなところから「あれ、これってファシズム研究じゃなくてファシズムそのものの本なの?」となってくる。
著者はファシズムは歴史的に位置づけるべきでありとにかく右翼的だったり権威主義的なものをなんでもかんでもファシズムと呼ぶのはよくない、と言っていて、それはもっともだと思うのだけれど、同時に大企業や各国の大半の主流政党から研究者や市民運動や2020年に活発になったBLMやアンティファに至るまで全部「反ファシズム勢力」としてひとまとめにしてしまっていて、したがって現代の反ファシズムには過去のそれのようにマルクス主義のような核となる思想はなく、ただ単に権力のある側が権力のない保守勢力を叩く道具になってしまっている、と主張。いやいやいやいやツッコミどころありすぎてどこからはじめたらいいかわからないよ!ファシズムは身体性を基盤とした思想だがアンティファはそうではない、だから大企業が従業員の性自認を尊重するとか言っているのだって言われても雑すぎ。
反ファシズムの側が、気に入らない主張を「ファシズム」だと決めつけてまともに議論を吟味せず、対話もせずに排除してしまっている例はあるだろうけど、それを批判するためにまったく背景も思想も違うものを「反ファシズム」とひとまとめにして否定するのは、同じことをやり返しているだけのような気がする。北イリノイ大学出版というまともな学術出版の会社がこんなの出していいんだろうか。