Nora Neus著「24 Hours in Charlottesville: An Oral History of the Stand Against White Supremacy」

24 Hours in Charlottesville

Nora Neus著「24 Hours in Charlottesville: An Oral History of the Stand Against White Supremacy

2017年8月に極右・白人至上主義者たちが全国から集結する集会が開かれ、かれらに抗議するために集まった活動家ヘザー・ハイヤーさんが白人至上主義者による自動車を使った突入で殺された事件が起きたシャーロッツヴィルで、街の人たちは何を経験したのか、その場にいた学生や宗教者、活動家、政治家らのインタビューなどを元に再構成するドキュメント。

ヴァージニア州シャーロッツヴィルはトマス・ジェファーソンが設立したヴァージニア大学がある街で、アメリカに反旗を翻して内戦を起こした南軍のロバート・リー将軍の像が公園から撤去されようとしていたことを受け、2017年の春頃から撤去に反対する極右や白人至上主義者たちによる抗議活動とそれに対するカウンタープロテストが繰り返されていた。ヴァージニア大学卒業生でもある白人至上主義者リーダーのリチャード・スペンサーは3月に小規模な抗議集会を行ったあと、8月に「右派の集結」を掲げる一大集会を企画、全国からさまざまな極右勢力が集結する。

予告されていた集会の前夜、極右はヴァージニア大学のトマス・ジェファーソン像前までの行進を企画、警察には「歩道を静かに通るだけ」と説明していたけれども、火の付いた松明を掲げた大集団か黒人やユダヤ人に対する差別的な声を挙げながら行進していることを知った学生たちはかれらに抗議するためにキャンパスに戻るも、大勢の極右に取り囲まれ逃げられなくなる。学生たちは特に標的とされそうな黒人やラティーノの仲間を守るようにして倒れ込み、極右による暴行を受ける。行進のはじめにはいたはずの警察は、手がつけられなくなったと判断した時点でいなくなっていた。そもそも翌日の大集会に備えて警察や市当局は準備しており、前日にここまでの事件が起きるとは想定していなかった。

翌日、朝から公園には大勢の極右が集結し、その近くにはカウンタープロテストを行う学生や宗教者たち、アンティファ、その他の活動家たちが位置取った。両者のあいだに入った警察は、まるで極右を守るかのように極右ではなくカウンタープロテスターの側を向いていた。アンティファは一つの組織ではないので地域やグループによって違いがあるものの、極右によって「ホモ宗教野郎」と罵倒され攻撃された宗教者たちに「何をされても物理的に反撃しないことに同意できるか」と聞かれて「分かっている、自分たちが体を張って守る」と応えた現地のアンティファ、カッコいい。しかし一部では極右による暴力が起こっていたが、警察は見守るだけで止めようとしない。止めに入ったらさらに混乱が大きくなるという判断だったというが、なんのためにいたのか分からない状態。

そうするうちに、集会の予定開始時刻が来るより先に、状況が悪化したとして双方に対して解散の命令が下る。ここではじめて警察は極右の集会を解散させるために公園に乗り込むも、結果的に公園にいた極右がカウンタープロテクターの側に押し出され、衝突が悪化。警察、ほんと何やってんだよ!で、手がつけられない混乱が起きるけれども、極右の多くが銃で武装していたこともあって警察は手を出そうとせず、逃げようとするカウンタープロテスターとそれを追いかける極右が周囲に広がっていく。近くの病院には次々と負傷者が送り込まれたが、そのなかにはカウンタープロテスターと極右の双方がいたため、病院内で衝突が再燃したり、顔を知られたカウンタープロテスター、とくに黒人やトランスジェンダーなど極右によってターゲットとされていた活動家たちが襲撃される危険が続いた。

ヘザー・ハイヤーさんが殺害された事件が起きたのはそうした騒動が収まったあとのこと。衝突は起きてしまったものの集会の阻止には成功し、極右は少なくとも街の中心部からは出ていったことで活動家たちは勝利を確信し、ストリートフェスティバルを開いて祝っていたが、そこにスピードを出した自動車で突入して35人を怪我させ、ハイヤーさんを殺害したのが、先の行進や集会で反ユダヤ人的なスローガンを連呼していた極右だった。良心からカウンタープロテストへの参加を決心したハイヤーさんが亡くなったのはとても残念だけれど、前日の行進から当日に起きた衝突、そして自動車による突入事件を通して死者が一人だけだったのはある意味不思議なくらい。何十人が殺されていてもおかしくないほどヘイトと暴力が渦巻いた24時間だった。

事件は、トランプが「双方にいい人がいる」と白人至上主義者とカウンターを対等に扱ったことが批判を浴び、ジョー・バイデンが2020年大統領選挙に立候補する決意を固める原因となるなど、アメリカの歴史的転換点となった感もある。また極右勢力はこの事件の反動から支持者を失い、共和党の主流から距離を置かれた(が、トランプ周辺によるコロナ陰謀論と選挙不正陰謀論の扇動により復活した)。

ニュース記事にしてしまえば「衝突があった」「一人殺された」で終わってしまう事件だけれど、本書は多数のインタビューなどをもとに時間を追って何が起きたのか、地元の人たちが何をどう経験していたのか追い、臨場感とともに記した貴重な記録。現地で自分の体を危険に晒して差別と暴力に反対した多くの人たちには尊敬と感謝を感じるとともに、自分なら何ができたか、どうできる自分でありたいか、と考えさせられた。あとテリー・マカリフ知事、あれだけ暴力が起きて怪我人が出ているのに「略奪や器物破損はなかった」と安心しているところか、集会は解散させたから解決したと思ってるところとか、ダメダメじゃん。そんな中途半端なリベラルじゃ、そりゃ真正の人種差別便乗屋のグレン・ヤンキンに負けるよね。