Michael Andor Brodeur著「Swole: The Making of Men and the Meaning of Muscle」

Swole

Michael Andor Brodeur著「Swole: The Making of Men and the Meaning of Muscle

女々しい男の子としていじめられた経験がありボディビルディングで体を作り上げることにハマったゲイ男性の著者が、自分の個人史とともに歴史や文学、ポップカルチャーを通して男性と筋肉、欲望、暴力、そして有害な男性性について語る本。

個人的にはまったく知らないことばかり(多少知っているのはアーノルド・シュワルツェネッガーの話くらい)のジャンルの本だったのだけれど、なかでもアメリカを代表する詩人であり男性を愛する男性だったという説が有力なウォルト・ホイットマンがペンネームで「男の健康とトレーニング」というコラムを連載していた、という話が面白かった。2016年にヒューストン大学の大学院生がホイットマンの残した原稿にコラムの下書きが混ざっているのを発見して突き止めたみたいなんだけど、たしかにこれはホイットマンのセクシュアリティに関する論争や有名な詩の解釈にも影響する大発見。やばい。

わたしの周囲にはそれほど筋肉に憧れる男性も女性もいないので(いるかもしれないけど周囲に言うほどではない)よくわからないけれど、性暴力やいじめを受けても耐えて強くなるしかないと思ってしまう男性や、ソーシャルメディアの筋肉インフルエンサーが演出やドーピングで大きく見せた体を見て劣等感を感じてしまう男性がいることは想像がつく。ゲイコミュニティでマッチョがモテるという話は昔から聞くけれども、それ以外でも筋肉を付けたらほかの男性から仕事の評価が上がったみたいな話があり、筋肉は男性同士のあいだで価値を持つ通貨とも言える。しかしそれは女性や自分より弱い男性に対する暴力や支配に繋がる危険もはらんでおり、本書はそうした側面についてもきちんと取り上げつつ、有害な男性性に陥らずに男性が自分自身を肯定する筋道を探る。