Meaghan Winter著「All Politics Is Local: Why Progressives Must Fight for the States」

All Politics Is Local

Meaghan Winter著「All Politics Is Local: Why Progressives Must Fight for the States

2000年代から2010年代にかけてミズーリ州、コロラド州、フロリダ州の3州で起きた州レベルの政治の変化を追うことで、民主党やリベラル、進歩派が地方政治に真摯に取り組む必要性を訴える本。2019年に出版された本だけれど、ある人から勧められて読んだ。

2016年の大統領選挙でヒラリー・クリントン元国務長官が落選した際、民主党関係者やリベラルな批評家・研究者らのあいだではどうしてトランプの当選を許してしまったのかという議論や検証が行われたが、本書もそうした議論に連なる一冊。著者が指摘するのは、民主党が大統領選挙や連邦議会など全国レベルの政治に集中しすぎて地方政治を放置してしまった一方、共和党は地方での勝利を利用して民主党の支持基盤を破壊したり選挙制度を自分たちに有利になるよう改変していったことだ。

そもそも近年のアメリカではほとんどの州が共和党支持の「赤い州」と民主党支持の「青い州」にくっきり分かれてしまい、それぞれの州のなかでも共和党支持者が多い田舎と民主党支持者が多い都市部に分断が進んでしまっている。それぞれの選挙区からトップの一人だけが当選する小選挙区制のもと、多くの州の多くの選挙区ではどちらか一方の党が圧倒的に有利な状況となっているため、放っておいても勝てる選挙区・どれだけリソースをつぎ込んでも勝てない選挙区が生まれてしまった。そのため両党はそうした選挙区を取り合うことを諦め、どちらに転ぶかわからないごく一部の州や選挙区にリソースを集中するようになっている。その結果、両党は普段から支持基盤を広げようという努力を止め、データを使って「最も接戦が続いている」選挙区を調べてそこに選挙直前に大量の資金やスタッフを投入して票を奪い合うようになってしまった。

そこまでの動きは両党に共通なのだけれど、しかし共和党には、地方での勝利をさらなる勢力拡大に繋げる戦略があった。それは、多数派を得た知事や州議会を使って民主党の支持基盤となる労働組合を弱体化させたり、環境保護や妊娠中絶や同性愛に反対する極端な法律を通して反対運動や訴訟を起こさせ同じく民主党の支持基盤である女性団体やゲイ団体のリソースを浪費させたり、次の選挙の選挙区割りを変えて共和党に有利にしたり、投票の仕組みや資格を変えて黒人や若者の投票を困難にするなどしたり。これらの政策は積み重なり、のちの選挙で共和党がさらに有利になるような効果を生む。共和党がこうした長期的な戦略を実行できるのは、労働組合の弱体化や環境保護のための規制の撤廃などの政策から直接利益を得る立場にあるビジネスからの安定した資金提供があるからだ。

いっぽう民主党の側は労働組合や女性団体、ゲイ団体、環境団体などバラバラな目的を掲げる運動の連合体であり、それぞれの運動に対する攻撃に一致して対抗する体制が取れないできた。また民主党やリベラルの側を支持する大手政治献金者もいるものの、かれらは保守系の献金者のように実利を得るためではなく個人の思想的な理由でリベラルな主張を支援しており、考えが変わったり十分な成果が出ていないさまざまな理由で献金を止めることも多いので、安定しない。ビジネス界のロビイストや利益代弁者は十分な報酬を得て知識や経験・人脈を蓄積させていくのに対し、資金供給が安定せず運営や雇用が途切れがちな運動団体ではそうした蓄積が行われず、将来のリーダーを生み出すのも難しい。

本書はミズーリ州、コロラド州、フロリダ州それぞれで2000年代からトランプ政権までのあいだでリベラル系の政治運動に関わってきた活動家、政治家、政治献金者らに取材して、それぞれの州でかれらがどう戦ってきたかを報告している。このうちミズーリ州は昔の南部民主党から共和党へひっくり返り、フロリダ州は接戦州から「赤い州」に完全に移行した感がある一方、コロラド州は接線州からほぼ「青い州」になったと言ってもいいほど近年民主党が勝ち続けているが、そこには民主党関係者のあいだで「コロラド・モデル」と呼ばれるリベラルの戦略的な再興運動があった。コロラドではデスクトップ出版ソフト「クォーク・エクスプレス」を作っていたクォーク社を設立したティム・ギルら4人の実業家らが長期的な計画のもとリベラル系の若者たちに資金を提供し、選挙サイクルにこだわらず普段から支持層を広げていく地道な活動を展開し、成果をあげてきた。またそうした若者の活動のなかから、次世代の政治リーダーも輩出し始めている。リベラルな支持基盤がなければ政治リーダーは生まれてこないし、地方政治でリーダーが生まれてこなければ全国区でリーダーシップを取ることができる政治家も生まれないので、こうしたエコシステムは重要。

このモデルは全国的にも注目を集め、ほかの州でも同様の試みが行われているが、やはり安定した資金確保が大きな課題。たとえばクォーク社を設立したギル氏はゲイ男性であり、同社があるデンバー市などで同性愛者への差別を禁止する条例を推進したが、1992年の住民投票でそれらの条例を停止する州憲法修正が成立し、クォーク社の社員の多くもそれに賛成したことにショックを受けたのが政治に関わるようになったきっかけ。しかしのちにコロラド州で同性婚が実現すると、ギル氏は政治運動への興味をなくしてしまった。企業や高額所得者への減税や環境保護や労働者保護の撤廃など共和党側が進める政策は直接それらの企業やその経営者の利益になるため政治資金を集めやすいが、リベラルなお金持ちの個人的な思想に基づいた寄付金や安定性を欠く。

リベラルなお金持ちと言えば、中道リベラル的な価値観を持つ巨大な財団としてゲイツ財団やフォード財団、ロックフェラー財団などもあるが、フォード財団が公民権運動の時代に黒人の有権者登録を支援したところ共和党のニクソン政権によって捜査されるなどしたため、いらいこれらの財団は理念的にはリベラルな主張を掲げながら、政治的にリベラルとみなされる活動への資金提供は避けている(ちなみにわたし、以前フォード財団の本部に行ったことあるけど、あんなに公民権運動に関連したアートを展示してるのになんでブラック・ライヴズ・マターにお金出さないの?と思った)。ジョージ・ソロスのオープンソサエティ財団は有権者登録など政治的な活動にもお金を出しているせいで(あとユダヤ人だから)右翼に叩かれまくってるけど、ナチスとスターリニズムを経験したソロスは政治思想や戦略的なアプローチを嫌っているらしく割りと線引きがある(と聞いている)。

このようにお金持ちや財団のお金でリベラル政治のエコシステムを支える「コロラド・モデル」も、たまたまそれが当たった時はいいけど一般的なアプローチとしては無理っぽいので、やっぱりわたしたち一般人がなんとかしなくちゃ、という話になる。Eitan Hersh著「Politics is for Power: How to Move Beyond Political Hobbyism, Take Action, and Make Real Change」に書かれているように、「政治に興味がある」人の多くはニュースやソーシャルメディアで全国的な政治の話題を追ったり議論したりするのが趣味なだけであって、実際に人々の生活に大きな影響を与えている地方の政治にあまり関心がなく、また知識すらないことが多いけれども、地方の政治こそが大事だし、そうでなくても長期的に見れば地方で勝たないことには全国的な政治で勝つための人材も組織も経験も蓄積されない。普段からシアトル市やワシントン州の政治に関わっているわたしの実感からも納得がいく内容だった。