Matthew J. Wolf-meyer著「American Disgust: Racism, Microbial Medicine, and the Colony Within」

American Disgust

Matthew J. Wolf-meyer著「American Disgust: Racism, Microbial Medicine, and the Colony Within

排泄物や腐敗に人々が感じる「生理的な不快感」と人種主義や植民地主義の関わり、医療や食文化における影響などについて論じる本。著者は科学と社会の関係についての専門家で、まとまりそうにない話題をよくこうもうまくまとめたな、という感じの意欲作。

排泄物や腐敗に人々が生理的な不快感・嫌悪感を感じるのは、病原体への感染を防ぐために人類が進化の過程で獲得した性質だと考えられるけれども、同時に人類は農業や食文化にそれらを利用してきたことも事実。また外部から病原菌をもたらすものである、という異物に対する嫌悪感が、異民族や下層の人たちに対する穢れの意識とつながり人種主義や排斥主義を正当化するためのメタファーとしても機能してきた。植民地主義の歴史のなかでは、自分たちの文化においても排泄物や腐敗を利用しているにもかかわらず異民族のそうした文化を取り上げて劣ったものとして扱い、物理的もしくは文化的なジェノサイドの口実としてきた。生理的な不快感といっても必ずしも全てが生物学的に決まっているわけではなく、社会のなかで学ばれている部分もある。

本書が扱うトピックは、かつてはトルコなど辺境の食べ物とされたチーズがヨーロッパの中心で受け入れられるようになった過程や、いまの米国で紅茶キノコやキムチが同様に「エスニックな食べ物」から白人が口にしてもいいものに変化しつつあることや、コーンフレークの発明者とされるジョン・ケロッグ医師(ケロッグ社を設立したウィル・ケロッグの兄——詳しくはHoward Markel著「The Kelloggs: The Battling Brothers of Battle Creek」参照)の健康に関する主張とかれが晩年推進した優生思想の関係、さらに便微生物移植による腸内健康の改善の話など幅広い。健康な人から便を移植することで腸内環境を改善するという実験的な療法が精神にも与える影響についての議論から、非白人の便を白人に移植したらどうなるかという現代的な不安に関する部分はとくに興味深い。