Mary Ann Sieghart著「The Authority Gap: Why women are still taken less seriously than men, and what we can do about it」
職場や家庭やメディア、政治などさまざまな場所や分野において女性が能力や経験を低く評価されたり見過ごされたりする「威信のギャップ」について広くまとめた本。著者はイギリスのコラムニストでコメンテータ。さまざまな研究と著名人を含む多くの女性へのインタビューからなる主題は良いのだけれど、人種や性的指向、障害などがどう性別によるギャップと交差するか、という部分は弱め、というか白人異性愛者の著者自身が弱気っぽい。ジェンダーとその他の問題の交差は単純ではない、というのはそのとおりなのだけれど、たとえば白人女性や黒人男性と異なり黒人女性は権威的にふるまっても白人男性と同じくらいペナルティを受けにくい、みたいな経験的に信じがたい研究を引用しているのだけれど、たった1つの実験心理学の論文の結果を無批判に取り上げるのはどうなのと。レズビアンと異性愛女性の比較でも同じようなことをやっているし。
また、女性が威信を認められていないことの証拠として、「男性と女性の両方の扱いを経験したことがある」トランスジェンダーの人たちの証言を挙げているのだけれど、トランス男性やトランス女性として公に発言している学者や本の著者たちの個人的な経験談がベースであり、興味深くはあるものの、トランスジェンダーの人たち一般の経験と合致するとは必ずしも言えないように思うし、さらにトランス女性が経験している「地位の低下」が男性から女性になったことによるものなのか、トランスだと明らかになったことによるものなのか十分に区別されているようにも思えない。まあ反トランス主義が蔓延しているイギリスのフェミニズムにおいて明確に反トランス「ではない」だけでちょっとだけ安心しちゃうのだけれど、やっぱり雑な気がする。
本の最後には「どのようにしてギャップをなくすか」という提言があるのだけれど、子どものおもちゃを男女で決めつけないでいろいろ与えて好きなもので遊ばせよう、みたいな当たり前なことばかりで、まあいまさら画期的な解決策を提示できるとも思えないのでそれは仕方がないのだけれど、何度か「性差別も人種差別と同じくらい間違っているということを徹底しよう」という表現があり、「人種差別が誤りであることは既に徹底されている」という白人フェミニズム的な前提が気になった。