Lis Smith著「Any Given Tuesday: A Political Love Story」

Any Given Tuesday

Lis Smith著「Any Given Tuesday: A Political Love Story

2020年大統領選挙でピート市長ことピート・ブーティジェッジ候補(現・運輸長官)の陣営で働いていた選挙公報専門家による回顧録。政治家を親戚に持ち父親も政府機関で働く弁護士だった著者は、学生時代の2004年にジョン・エドワーズ上院議員の選挙運動にボランティアとして参加したのをきっかけに選挙スタッフの道を歩んだ。エドワーズ陣営の指示で対立候補のイベントに潜り込みイヤな質問をしてイベント後にその候補のスタッフから「どこの陣営で働いているのか知らないけどうまくやりやがったな」と言われたように、手段を選ばないファイトスタイルで頭角を表したのだけれど、のちに不倫相手の女性とのあいだに子どもをもうけていたことが明らかになったエドワーズをはじめ性関係でダメな男性政治家となぜか次々関わってしまう。

クレア・マキャスキル上院議員やテリー・マコーリフ知事、スティーヴ・ブロック知事らキャラ強めの政治家たちの選挙陣営で働いた話もおもしろいのだけれど、元ニューヨーク州知事のエリオット・スピッツァーの選挙陣営に参加したあとよりによってスピッツァーと私生活でも付き合うことになってからの経験が壮絶。スピッツァーは高級売春クラブの顧客であることが明らかになって州知事を辞任した過去があり、著者が雇われたのはかれが再起をかけてニューヨーク市会計監査官というかなり格下の地位を目指して選挙に出た際。スピッツァーはあっさり落選し、著者はニューヨーク市長選に出ていたビル・デブラシオの広報担当になったけれども、彼女がスピッツァーと付き合っていることがメディアにバレてスキャンダルに。記者が彼女の自宅に張り込み、タブロイド紙には彼女とスピッツァーがビーチリゾートでどういうセックスをしていたという話まで書かれたけれど、その時のアリバイが証明されて誤報だと判明する。ニューヨークのタブロイドこわい。さらに著者がスピッツァーと別れたあとも、スピッツァーは別の女性と付き合っていた際に喧嘩となり相手の女性に暴行した、そしてそれを理由に恐喝されて多額のお金を払っていた、という新たなスキャンダルが炸裂。スピッツァーの元彼女として著者はまたメディアに取り上げられる。

そんな経歴が評価されてか、ニューヨーク知事のアンドリュー・クオモにセクハラ疑惑が持ち上がった際には、クオモのメディア対策チームにも呼ばれる。チームに対して疑惑を全面否定するクオモを信じてアドバイスをするも、次から次へと新たな被害者の告発が続き、クオモは辞任することに。クオモが側近にすらウソをついて疑惑の隠蔽に巻き込んだせいで、かれにアドバイスをしていた(そしてその結果かれの疑惑否定に加担してしまった)としてCNNを解雇されたかれの弟のクリス・クオモをはじめ、多くの関係者のキャリアに傷がついてしまった。しかし著者はもうちょっとエドワーズやスピッツァーの経験から学んでクオモを疑うべきだったんじゃという気もしないではない。

いっぽうブーティジェッジについては、ケネディやオバマの再来だという感じにめっちゃ持ち上げていて、この本から判断する限りブーティジェッジはカッコ良すぎる。ブーティジェッジの選挙運動を追ったドキュメンタリ「Mayor Pete」(日本からもアマゾンプライムで観られる?)にもブーティジェッジ本人と並んで著者が登場している。著者がブーティジェッジ陣営スタッフとしてテレビに出演した際、中西部の飾らない人間というイメージのブーティジェッジにハイファッションを纏う著者はマッチしてない、と共演者に指摘され、デザイナーブランドやハイヒールを封印した、というエピソードは、女性が政治の世界で活躍するためには余計なことを考えなければいけないのか、という思いとともに、そもそもそういうメディア対策をするのが著者であるはずなのに共演者に指摘されるってどうよ、とも思ったり。

著者が関わった選挙運動には負けたものが多いけれど、ブーティジェッジを含め魅力的な候補が独自の路線で健闘したパターンと、性の問題でダメダメな男性の自己崩壊に巻き込まれて損したパターンに分かれるような気がする。ブーティジェッジの将来とともに、こんな暴露話も多い本を出した著者が今後どの選挙陣営で働いていくのか気になる。あといつも思うけど、回顧録ってエピローグで父親か母親が死ねばうまくまとまるっていう法則でもあるのか––まあ、親の死を経験したことで人生を振り返るきっかけになった、だから回顧録を書いた、という感じなのかもしれないけど。