Kevin Munger著「Generation Gap: Why the Baby Boomers Still Dominate American Politics and Culture」

Generation Gap

Kevin Munger著「Generation Gap: Why the Baby Boomers Still Dominate American Politics and Culture

アメリカ史上最も人数が多く最高の豊かさと文化的影響力を誇ったベビーブーム世代が引退の時期を迎え、後続世代(X世代、ミレニアル、ポストミレニアル/Z世代)に人数の面で追い越されつつあるにも関わらず、いまだに政治的権力を保持し続けていると指摘し、今後10年は世代間政治が重要になると予想する本。著者が採用している世代の定義はPew Research Centerによる16年ごとの区分で、印象論ではなく大量のデータを元にした議論が心地いい。

ただしアメリカの場合、白人のあいだではベビーブーム世代は文字通り人口ピラミッド上目立って人数が多いけれど、第二次大戦後に起きた高等教育や持ち家推奨政策の恩恵を受けられなかった黒人のあいだではブームは起きていないし、またラティーノやアジア系は1965年まで白人優先の移民法によって移住が難しかったし後続世代には若い移民が多いため、ベビーブーム世代が他の世代に比べて目立って多いということはない。また、ベビーブーム世代以前のアメリカでは、現在は白人とみなされているような南欧・東欧系の人たちや、ヨーロッパ系ユダヤ人たちがまだ完全には「白人」とはみなされておらず、人種差別の対象となっていたが、ベビーブーム世代が生まれた時期に「白人」とみなされる範囲が拡大されたため、その意味でもこの世代において「白人」の人口は一気に増加した。すなわち、ベビーブーム世代とは単純にたくさんの子どもが生まれた世代ではなく、アメリカ史上最も「白人」の占める割合が高くなった世代である、という点には留意しておく必要がある。

著者によれば、ベビーブーム世代は人口が多いだけでなく、歳を重ねてもその勢力を保ち続ける最初の世代でもある。過去の世代ならある程度の年齢になると亡くなるなどして数が減り後続世代に権力の座を譲り渡すところが、ベビーブーム世代はもともと人数が多かっただけでなく寿命も長くなった結果としてより長いあいだ権力を持ち続けている。たとえば昔なら政治家は30代あたりから高い地位に就きはじめ、50代にはキャリアのピークを迎えるが、その後そう遠くない時期に引退するか亡くなっていた。ところが現在では70代になっても現役で活動を続ける政治家が増えたため、後続世代がそれらの地位にありつけず、割りを食っている。こうした構図は大統領や連邦議会といったトップクラスのポジションだけでなくそこに連なる地方議会や選挙運動員・政党スタッフにまで及び、また高齢者の投票率が若者に比べて高いこともあり、ベビーブーム世代は人口比以上の影響力を持っている。

その結果、ベビーブーム世代が関心を抱く年金やメディケア(65歳以上を対象とした公的保険)が政策課題として優先される一方、若者が自分たちの世代の重要な問題として関心を寄せる気候変動対策、学生ローン返済義務の救済、メディケアの国民皆保険化(全年齢への拡大)などは実現しない。また今後高齢化が進むことが確実で、労働人口が減り年金人口が増える結果、いまのままの年金制度では近い将来破綻することが懸念されているのに、痛みが小さくてすむうちに(ベビーブーマー世代が引退する前に)是正しようという試みは先延ばしにされてきた。その結果将来より厳しい変革を受け入れなくてはいけないのはベビーブーマーより後の世代だ。気候変動対策にコストをかけずに未来の世代に負担を押し付けるのもそれと同じだし、ベビーブーマー世代は政府が高等教育に予算を割いてくれたおかげで多額の学生ローンを抱えずに済んだので若者世代がどれだけローン返済に苦しんでいるのかわからない。

また、2016年の大統領選挙に大きな影響を与えたとするソーシャルメディアにおけるフェイクニュースの拡散についてはトランプ当選後多数の調査が行われたが、その結果、フェイクニュースの圧倒的多数は既に「高齢者のメディア」となりつつあるフェイスブック上でベビーブーマー世代によってシェアされた。ベビーブーマー世代は「副大統領の名前は」「最高裁判事の人数は」といった誰もが認める事実についての知識は若者より詳しいけれど(そういった事実は検索すれば1秒で見つかるので若者は特に覚えようともしない)、フェイクニュースやそれを拡散するアルゴリズムの台頭には対応できなかった様子。現在の政治体制やインスティチューションを作り上げた世代が老いた結果それらを破壊しはじめているとも言える。

しかし、過去の世代よりは長いあいだ権力の座に居座ることができたとはいえ、ベビーブーマーの権力は永久ではなく、いずれは後続世代との逆転が起きるのも確か。著者は今後10年間にその変化が始まり、そのときアメリカ政治ではかつてないほど世代間の政治が重要性を持つ、と予測している。ミレニアル世代を代表するAOCや若者の支持を集めたバーニー・サンダースらはまだ民主党内では非主流派だけれども、今後10年間でそのあたりどうなるのか注目したい。(いっぽう共和党側のミレニアル世代代表だったマディソン・カーソーンはあまりにひどすぎて退場しちゃったけど…)