Keith Boykin著「Race Against Time: The Politics of a Darkening America」

Race Against Time

Keith Boykin著「Race Against Time: The Politics of a Darkening America

タイトルはrace(人種)と「時間との競争(レース)」を掛けたもの。活動家やクリントン大統領らの選挙・政治スタッフ、政治コメンテータなどを経験してきた黒人ゲイ男性の著者が、自らの経験と南北戦争以来のアメリカ史(とくにジョージ・H・W・ブッシュ以降)をたどりながら、どのようにして人種差別的な右派と正義より融和を優先する白人リベラルが共同して白人至上主義を温存してきたか、そして人種平等への抵抗が米国の人口の多様化とともにさらに激しさを増しているかを綴った本。2020年を、100年振りに起きたパンデミックであるコロナ危機とそれにより表面化した健康格差、大恐慌以来不平等な経済的ショック、1960年代末のキング牧師暗殺以来最悪となった人種をめぐる対立、そして共和党が黒人を裏切り人種平等政策を放棄するきっかけとなった1876年以来の大統領選挙の結果をめぐる混乱という、4つの歴史的な事件が起きた年と位置づけたうえで、それらのすべてに人種問題が関わっており、すべての問題において黒人やその他の非白人が多く犠牲になっていると論じる。

個人的に一番おもしろかったのは、著者が初期のクリントン政権で上級政策顧問を務めたジョージ・ステファノポラスの部下として働いていたころに関わった、米軍における同性愛者禁止規定の撤廃をめぐる話の部分。クリントンは選挙中に集会で軍隊における同性愛者禁止について問われ禁止規定の廃止を公約したものの、当選後実行しようとしたところ軍や世論から猛烈な反発を浴びて、結局「禁止は撤回しないが、同性愛者であるかどうか聞いてはいけないし、答えてもいけない(ドント・アスク・ドント・テル)」という中途半端な命令を出した。著者は当時この決定について、仕方がない妥協だと受け入れてしまったけれども、その後も多数の軍人たちが同性愛者として除隊させられることは続き、間違いだったと気づいた。そして政権発足直後にあっさり同性愛者への約束を破ったクリントンはその後、同性婚を制限する「結婚防衛法」を成立させてしまう。

本書は、遠くない将来にアメリカの人口の過半数が非白人になるという予想される変化について、人種問題に本格的に取り組む可能性は生まれるものの、自動的に解決すると考えるのはまずいとし、むしろさらに現状維持をはかる勢力の抵抗が激しくなるであろうことを警告する。これまでの民主党による対症療法的な取り組みは失敗してきたとして、人種問題の解決のためには白人至上主義の歴史そのものに向き合い、自省とアカウンタビリティを伴う実質的平等の実現が必要だと論じている。