Kate Masur著「Until Justice Be Done: America’s First Civil Rights Movement, from the Revolution to Reconstruction」
独立戦争から南北戦争後のリコンストラクションまでの「アメリカの最初の公民権運動」の歴史についての本。著者はノースウェスタン大学の歴史学者。公民権運動と言えば普通は教育における人種隔離政策を違憲と判断したブラウン判決が出た1954年から60年代終わりまでの時代を指すけど、この本では独立戦争から南北戦争までの期間に起きた奴隷制と黒人の市民権をめぐる長い論争と運動を追うことで、それがのちの公民権運動に繋がっていることを説得的に示す。
アメリカの憲法では、逃亡奴隷の元の持ち主への引き渡しを定めた条項と、議員の人数を決めるための人口調査において黒人奴隷を3/5人として数えると決めた条項があり、奴隷制を施行するかどうかは州の判断に任されていた。しかし当時から黒人奴隷たちの抵抗や、奴隷制のない州に住んでいる自由な黒人たちによる奴隷解放運動があり、またさまざまな思惑からそれにさまざまな程度同調する白人の活動家や政治家やジャーナリストがいた。
自由州(奴隷制のない州)に逃亡した奴隷の引き渡しは憲法で定められていたけど、そこにはまだ問題がいくつかあって、それがたとえば所有者に連れられて自由州に旅行・滞在する奴隷の扱いであり、蒸気船の船員など仕事の都合で奴隷州を訪れる自由州出身の黒人の扱いだった。どちらの問題にも関連するのが、憲法の「ある州の市民がほかの州に滞在する場合、その市民の権利は、滞在している州も尊重しなければいけない」規定。それにより自由州に滞在する奴隷所有者は自分が連れてきた奴隷に対する所有権を主張し、その州に奴隷制がないからといって自分の権利は侵害されないと主張したが、いっぽう奴隷州を旅行する自由州出身の黒人市民の権利は奴隷州において尊重されず、自動的に逃亡奴隷とみなされて逮捕されたり、誘拐されたりして、奴隷として売られることが多発した。
それは黒人たちにとって耐え難い扱いであっただけでなく、自分が従業員を誘拐された白人雇用者や、州の権限を不平等に侵害される一方の自由州の白人たちからも反発を浴び、各地で奴隷制廃止、黒人の市民権取得推進の声があがる。この本ではオハイオ州など(当時の米国としては)北西部を中心に、そうした各地の運動や政治の動きを丹念に追っていて、勉強になった。この本に続くリコンストラクションの挫折の歴史は、最近紹介した別の本を参照。