Joanna Bourke著「Disgrace: Global Reflections on Sexual Violence」

Disgrace

Joanna Bourke著「Disgrace: Global Reflections on Sexual Violence

性暴力についてのグローバルな歴史を提示する、イギリスの歴史学者による本。幼少期をニュージーランド、ザンビア、ソロモン諸島、そしてハイチで過ごした著者だけあって本当にグローバルな内容で、スーザン・ブラウンミラーによる第二波フェミニズムの古典『レイプ・踏みにじられた意思』で描かれた普遍的解釈への反論にもなっている。

本書の序盤は性暴力が多くの場合加害者ではなく被害者にとっての「不名誉」として扱われることや国家によって軽視されていること、夫婦間のレイプが合法とされてきたことを指摘するなど性暴力について少しでも考えたり学んだ事がある人にとってはありふれた内容だけれど、だんだん他ではあまり扱われない領域に踏み込んでいき刺激的な内容になっていく。それはたとえば戦時における女性による性暴力やそれに対する戦争犯罪追求の枠組みのなかでのジェンダー化された議論や、トラウマという概念と性暴力の結果としての精神的後遺症の歴史的・文化的構築など。とくに後者については、アメリカ精神医学会によって策定されるDSMなどを通して欧米のトラウマ概念が世界中に広められることで、それぞれの社会における性暴力被害者たちの経験を歪め、被害者としての社会的承認が妨げられる危険などについての指摘は納得がいくものだった。

戦時性暴力についての章では日本軍「慰安婦」問題が大きく取り上げられていて、日本の右翼による歴史否定主義に対抗するために資料を集めたり専門的な本や論文を読み漁ったわたしから見ると単純化されていたり信頼性の怪しいソースが含まれていたりと雑な内容もいくつも見られたのだけれど、全体としては著者は日本軍による犯罪について正しいことを書いているわけで、細かいディテールについて事実を利用しつつ全体的に間違った方向に議論を逸らそうとする歴史否定主義者のせいでわたしの知識がどれだけ(より増やすと方向だとはいえ)偏ってしまったかあらためて気づいた。とはいえ日本や韓国やその他の国で闘ってきたサバイバーや活動家や研究者を差し置いてラディカ・クマラスワミさんが画期的な発見をしたかのような書き方はまじ残念。