Jenara Nerenberg著「Divergent Mind: Thriving in a World That Wasn’t Designed for You」

Divergent Mind

Jenara Nerenberg著「Divergent Mind: Thriving in a World That Wasn’t Designed for You

ニューロダイバージェントな(非典型的な脳機能を持つ)女性たち、とくに感覚処理感受性が高いいわゆるハイリー・センシティヴ・パーソン(HSP)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、感覚情報処理障害(SPD)、共感覚のある人、といった、周囲の環境からの刺激を過剰に知覚し生きにくい状態にあることが多い女性たちについての2020年の本。

著者はハーヴァード大学やカリフォルニア大学バークレー校を卒業しジャーナリストとして活躍していたジャーナリスト。娘の一言から自分が当たり前だと受け入れていた生きにくさがASDやADHDの症状と似ていることに気づき、同じような悩みを抱えた女性たちを取材をするなか、ニューロダイバーシティという言葉とその考え方に出会い、またニューロダイバージェントな女性たちがメディアに流通する典型的なASDやADHD像とは異なる経験をしてきたことに気づく。

女性のニューロダイバージェンスが男性のものと異なるという指摘は以前から聞かれている。たとえばAnushay Hossain著「The Pain Gap: How Sexism and Racism in Healthcare Kill Women」にも書かれているように、医療は伝統的に男性を標準的身体として発展してきた歴史があり、その研究対象として女性や多様な人種の被験者が含まれるようになったのはごく最近の話。さらに女性は、幼いうちから周囲に気を配り合わせるよう躾けられるので、早いうちから自分の本来のあり方を抑え、ほかの子どもたちの言動を真似することで周囲に溶け込むマスキングという行動を取る傾向が男性に比べて強い。そもそもの診断基準が男性の症例を元にしていることに加え、自分を隠して周囲に合わせるという性役割的な期待を強く受けていることが重なり、多くのニューロダイバージェントな女性は大人になるまで診断を受けずに人知れず悩んでいることが多い。本書がインタビューした女性のうち何人もが、育児をするなか自分の子どもが自閉症などの診断を受けたことをきっかけに自分自身のニューロダイバージェンスにも改めて気づいた、というエピソードを語っているのが印象的。

ニューロダイバージェントな女性たちが適切な自己認識と周囲の理解を得て成功している、企業はもっとニューロダイバージェントな社員が活躍できるような環境を整えるべきだ、という話が書かれているのだけれど、うまくいっているプロフェッショナルな女性たちばかりにインタビューしているだけの気もする。彼女たちの人種については書かれていないけど、ほぼ白人だろうという想像が付くし。騒音に対する感受性が敏感な人たちが安心して働けるように騒音を抑えニューロダイバージェントな労働者ばかりを集めたウォルマートの配送センターがあるという話も出てくるけど、それが本当に素晴らしい職場なのかどうかは労働条件にもよるだろうし。ディスアビリティ・ジャスティスの考えからは、職場をより多くの人たちにアクセシブルにするだけでなく、職場における権力関係そのものを変えなければいけないと思うので、本書ややや物足りなかった。