James Vincent著「Beyond Measure: The Hidden History of Measurement from Cubits to Quantum Constants」

Beyond Measure

James Vincent著「Beyond Measure: The Hidden History of Measurement from Cubits to Quantum Constants

測量・測定とそれに使われる単位や手法などの歴史についての本。

人間の体の部位の長さや一日に一人の人が耕せる土地の広さ、適切な労働の区切りとなるような時間や週の概念など、身近なものや生活に根ざした単位が生まれ広まり、そしてメートル法をはじめとするより抽象的な単位系に置き換わられていく歴史とともに、それらがそれぞれの社会においてどのように利用され、どのような影響を与えていたかをコンパクトにまとめている。単位や測量は一見すると客観的だけれど、計測を誤魔化すことで詐欺をはたらいたり課税額をかさ増ししたりすることもできるし、一定の単位や測量手法を導入することは支配の手段でもある。フランス革命にルーツを持つメートル法や国際単位系(SI)に対する、ブレグジット運動や反グローバリズム運動に繋がるポピュリズム的反発は理不尽なところもあるけれども理解できなくもない。また統計学の発達により計測された数値が人種差別や性差別の科学的根拠とされたり優生学を生みだした歴史も無視できない。現代ではインターネットなどを通した監視テクノロジーの発展によりあらゆる行動が数値化され、中国政府が導入している社会的信用スコアなどの問題も注目されているほか、個人が自分の健康や活動を事細かにデータとして計測する試みも広まっている。

個々の話はどこかで聞いたような話が多いのだけれど、新たに知ったおもしろい話もあった。ただ優生学や監視テクノロジーの話になると表面をなぞっただけの印象になってしまうので、統計やビッグデータにまで話を広げずに、単位と測量の歴史(社会的・政治的な側面についても含む)についてだけに集中してくれたほうが良かったかも。