Jacob Heilbrunn著「America Last: The Right’s Century-Long Romance With Foreign Dictators」

America Last

Jacob Heilbrunn著「America Last: The Right’s Century-Long Romance With Foreign Dictators

外交誌「ナショナル・インタレスト」の編集者を務める外交ジャーナリストが、アメリカの保守インテリが自由と民主主義、そしてアメリカ第一主義を名目としながら、外国の独裁者を称賛しそれらを否定する行動を取ってきた約一世紀の歴史を綴る本。プーチンやエルドアン、オルバンら独裁者権威主義的な指導者たちへの憧れを隠そうともしないトランプが、保守の歴史の中では決して例外でも特異でもないことをこれでもかと指し示す。

もちろん保守インテリが自由や民主主義を否定するのはここ一世紀に限った話ではなく、たとえば口先では自由や民主主義を訴えながらそれには「奴隷を所有する自由」などが含まれており実際には自由も民主主義も普遍的な意味では支持していなかった。しかし、外国の独裁者をことさら称賛し、アメリカにもかれらのような指導者が必要だと訴えるようになったのは、各国で労働運動や人種平等運動、女性運動などが活発になり、共産革命の恐怖が意識されるようになった20世紀序盤からのこと。ドイツのヴィルヘルム2世およびのちのヒトラー、スペインのフランコ、イタリアのムッソリーニなどヨーロッパの独裁者だけでなく、ドミニカ共和国のトルヒーヨ、チリのピノチェト、コンゴから分離独立しようとしたカタンガのチョンベ、南アフリカ共和国の歴代白人政権など、人権を弾圧し民主主義を否定する独裁的な政権がアメリカの保守派によって「共産主義の拡大に対抗するために必要な行動を取っている」として自由と民主主義の旗手として持ち上げられた。

かれら保守インテリは、第一次世界大戦にアメリカを参戦させてドイツ帝国を崩壊させたウッドロー・ウィルソン大統領や、ナチス・ドイツに敵対的な態度を取ったフランクリン・ルーズヴェルト大統領を批判した。とくに後者については、共産主義国家のソ連を抑え込むためにナチスを利用すべきだとして大統領を批判し、日本による開戦後にも「真珠湾攻撃はアメリカを参戦させるためのルーズヴェルトの陰謀だった」と宣伝したし、戦後になってもナチスによるホロコーストを否認し、「難民としてアメリカに来たユダヤ人たちは本当は難民ではなく、共産革命を起こすために送り込まれた工作員だ」と主張した。ナチスの巨悪にアメリカ全体が一致団結して立ち向かった、というのはのちに作られた神話にすぎず、保守インテリたちはナチズムよりもソ連の共産主義の方が危険だとして、ソ連と同じ側で参戦したルーズヴェルトは政権内に多くのユダヤ人を呼び込んだ共産主義者だと叩いた。

保守運動のなかでこうした考えに抵抗したのが、冷戦終結後の世界で西側型の民主主義と市場経済を東欧に輸出しようとしたネオコンたち。かれらは独裁政権や絶対王政が多く残る中東も同様に民主化しようとして湾岸戦争や対テロ戦争を起こしたものの、ウソをついてまで推進した2001年以降の対テロ戦争がその後延々と続く混乱を巻き起こし、さらには東欧や旧ソ連圏へのNATOやEUの拡大がロシアの反発を呼ぶなど大失敗を繰り返した結果、プーチンを称賛し「ウクライナはロシアの勢力圏なんだからロシアにくれてやれ」という反民主的な勢力が保守運動の主流を取り戻す。「トランプはロシアになにか弱みを握られていて逆らえないんだ」という陰謀論をほのめかす人もいる一方、どう見てもトランプは本心からプーチンに憧れプーチンみたいになりたいと願っているように見えるけど、ああいった権威主義的な指導者に憧れるのはトランプだけでなくアメリカの保守運動の中で過去100年以上にわたって大きな力を持っている一大勢力だということはきちんと押さえておきたい。