Hannah Setzer著「I’ll Pray for You: And Other Outrageous Things Said to Disabled People」
障害者でフィットネス・インフルエンサーの著者によるエッセイ集。表題は、障害者と見ると近寄ってきて「あなたのために祈らせてください」と言ってくる押し付けがましい赤の他人(祈りたいなら勝手に祈ってろボケ)やその他の障害者に向けられるバカげた言葉、といった意味だけれど、実際のところそうした内容は一部だけで、障害とは関係のないものも含め著者が経験してきたさまざまなことについて語っている。
著者を有名にしたのはインスタグラム。顔に障害があり経管で栄養を取る著者がはじめた「栄養チューブ・フィットネス」というアカウントは見るからに障害のある著者がさまざまな運動をするだけの単純なものだったけれど、障害があるために人前に出るのを避けていた人たちや、障害がある子どもに著者のように堂々と表に出て欲しい親たちから支持を集め有名に。さらに「6羽の鶏を飼えるなら36羽の鶏も飼える」など著者が考え出した名言風のミームやそれを印刷したTシャツなども人気を博し、それがビジネスにもなってくる。ただ普通に生きているだけの障害者をインスピレーションのソースとして搾取する傾向を批判する一方で、自分が実際に行ったことは誇ってもいいし人々をインスパイアしたい、という意志がそこにはある。
はっきりとは書かれていないけれど生まれた家庭の裕福っぽいし、非営利団体を作って家の近くの土地を買収して公共の公園を作ろうとしていたり現在も経済的に恵まれているんだろうなあというのをひしひしと感じていて、その点おおくの障害者たちの現実とはかけ離れたものは感じるし、インターセクショナリティは感じないのだけど、それなりにおもしろい。起業家精神が強くいろいろ手を出す著者らしく、本書も自費出版のようなのだけれど、オーディオブックの会社によってオーディオ化もされてちゃんと図書館に入っているし、かなりのやり手。