Emily Flitter著「The White Wall: How Big Finance Bankrupts Black America」
奴隷貿易の時代から現代まで、アメリカの金融業界がどれだけ黒人を搾取し、差別し、食い物にしてきたかまとめた本。対象とされているのは銀行、保険会社、投資会社など金融業のさまざまな業種。
古くは奴隷貿易に資金を融資したり資産としての奴隷に保険をかけたりすることで奴隷貿易の拡大を可能にし、また融資の担保として奴隷を回収して売り払うなどして利益を得たこと、奴隷解放後は住宅ローンなどを通して黒人が住むことができる地域を制限したり追加の融資によって不動産の価値を上げるような補修や改修を行わせなかったこと、黒人の事業への融資や保険を拒否したり割増の利息や保険料を取ったこと、黒人の一般利用者が銀行で小切手を入金しようとしただけで偽造だとか盗難された小切手だと疑われて警察を呼ばれるケースが多数あること、黒人への保険金の支払いを不当な方法で拒んだこと、ごく最近では黒人を主なターゲットとして本来はより良い条件のローンを受けられるはずの人や本来ならローンを組むべきではない人にまでサブプライムローンを押し付けて1960年代以降黒人たちが積み上げてきた資産を根こそぎ奪い取ったことなど、多数の例が挙げられる。
また本書では金融業界で働く黒人労働者たちの経験も豊富に紹介、ダイバーシティを掲げて黒人たちを採用するも白人の新人のように機会やコネを与えられずに飼い殺しにしたり、オフィスの維持費用だといって黒人だけに経費を負担させる例などが挙げられる。個人の体験談はそれが組織的あるいは構造的なものなのかそれともその人だけが経験した特殊な例なのか、あるいは人種を理由としたものかほかの理由によるものなのか判断しづらいが、集団訴訟に発展したケースだけを見ても酷いものがたくさんある。
最後のほうでは、黒人が金融業界で活躍できるようにはじめられた取り組みも紹介されているけれど、問題の大きさに比べて十分だとは思えない。業界によるロビー活動の結果、金融業界による差別の有無を監視する制度自体が形骸化され、裁判になったケースでも業界側が違法行為を認めないまま和解金を払って被害者を沈黙させてしまっているので、とりあえずは政府によるちゃんとした調査を実施することからはじめないといけない。また、奴隷制や人種隔離政策に対する補償問題については漠然とした「政府の責任」の有無が論じられがちだが、研究により現存する銀行など一般企業の前身がいつどこでどのような差別行為によって利益を得ていたか明らかにされつつあり、そういった具体的な行為に対する賠償責任の追求も必要。