Eden Boudreau著「Crying Wolf: A Memoir」
夫の公認でネットで知り合った男性とのデートに行ったバイセクシュアルでポリアモリーの女性が、相手の男性によって無理やり車に押し込まれてレイプされ、夫がいるのに他の男性とデートなんてするからだという偏見や懐疑の目を向けられ傷つけられた経験を振り返り、それを文章にすることですべてのサバイバーのために戦ってきた記録。
タイトルの「crying wolf」はイソップ童話の「オオカミ少年」の話を指す。性暴力の被害を訴える女性たちは、その証言を疑われ、なんらかの復讐だろうとか男性を貶めようとしているという偏見を向けられ、相手の有罪が証明されでもしないかぎり嘘つきだと言われつづける。それが夫とポリアモリーの関係にある女性であるとさらに、性的に緩いのではと決めつけられ、夫公認だというのに「夫以外の男性と関係を持ってしまったことを誤魔化すためにレイプされたと言い出したのでは」と疑われたり。後遺症に悩んで通うようになったカウンセラーを通して警察の性暴力担当官に会うも、裁判になれば自分の性生活やライフスタイルについて根掘り葉掘り聞かれることや、そこまでやっても性暴力加害者とされる人が有罪になるのは4%に過ぎないことなどを伝えられ、通報を断念する。
著者は昔からファンタジー作家になりたいという夢があり、いつの間にか諦めていたけれども、依存症や鬱、不安症、自殺思慮などトラウマの後遺症に悩むなかで執筆のよろこびを再発見。憧れのマーガレット・アトウッドがコーチを務めるライティングキャンプに参加し、ほかのライター志望者たちとの交流を通して、オンラインメディアを中心にエッセイを寄稿するようになっていく。そのなかでついにポリアモリーの女性として性暴力被害を訴えることの困難について書くことができた。この本はその延長にある。
セックス・ポジティヴでクィアでポリーな著者が、それらのアイデンティティのせいで性暴力サバイバーとしての経験を家族や知人、警察などに疑われ、否定され、苦しめられるのは、女性に対する貞操概念の強要の一つの結果。読むのが辛いけど大切な本だと思う。