Derrick Jensen, Lierre Keith & Max Wilbert著「Bright Green Lies: How the Environmental Movement Lost Its Way and What We Can Do About It」

Bright Green Lies

Derrick Jensen, Lierre Keith & Max Wilbert著「Bright Green Lies: How the Environmental Movement Lost Its Way and What We Can Do About It

地球と生命に対する本質的な危険として産業文明を否定する環境団体ディープ・グリーン・レジスタンスの創始者及び中心メンバーによる、現代の環境運動批判の本。最近は環境運動よりトランスジェンダー差別で話題になることが多いDGRだけど(というかトランスジェンダー差別を派手にやりすぎて思想的に近い環境団体からも関係を打ち切られている)、誰になんと思われても気にしない強みか議論はキレッキレの鋭さ。

「ブライト・グリーンの嘘」というタイトルの「ブライト・グリーン」とは、気候変動をはじめとする環境の危機は技術革新と社会的イノベーションで解決できる、という立場のこと。それはたとえばソーラーなど自然エネルギーの活用やリサイクリングの拡充・効率化など、産業文明を温存したまま、あるいはむしろ推し進めることで迫りくる環境の危機を乗り越えようという考え方。そうした「技術革新」の実態について、著者らは具体的な数字を挙げて次々にそれらが現実離れした宣伝文句でしかないことを指摘、環境運動が自然を守るのではなく産業文明とそれによって成立する一部の先進国の人間の快適な生活を守ろうとして「産業文明は持続可能である」という嘘を推進している、と批判する。

序盤で著者らはこのように宣言する。「わたしたち3人の共著者たちだって、現代の医薬品がなければ死んでいました。しかしそれには地球上の生命という酷いトレードオフがあります。どんな個人の利便性や命も、そのコストには見合いません」。著者らによれば、現代産業文明は資源の乱獲、自然破壊と多数の生命の殺害、先住民に対するジェノサイドや労働者の酷使、エネルギーの際限ない消費によって成り立っており、政府の助成金によってしか成り立たない「持続可能なテクノロジー」はそれをさらに悪化させるだけ。いずれ産業文明は崩壊せざるをえないが、環境を限界にまで追い込んでからの崩壊は人間にもその他の生物にも被害が大きすぎるので、人々が自らの意思で産業文明を終わらせるべきだと主張する。

しかしそのために著者らのように現代医療を否定して自らの(そして愛する人たちの)死まで受け入れることができる人は多くないだろうし、実際には「誰の命を犠牲にするか」という生命の選択が現代以上に不公平になりそう。しかしもちろん、資源採掘の現場や途上国の工場、そして気候変動の影響が既に強く見られる地域などにおいて、現代でも既に不公平な生命の選択が起きていることもまた事実。いまさら生活水準を何分の一かに落とすことも難しいし、技術革新に期待するしか「わたしたち(先進国の人間の)生活」を維持する見込みが立たないからといって、ソーラーやジオエンジニアリングやリサイクリングが問題を解決してくれるという自分たちにとって都合のいい嘘にすがり、そういった技術を約束する産業の利権獲得に協力してしまうのもまずい。わたし個人はさすがに著者らの考えに全面的に賛同してコミットするほどの覚悟はないけれど、今後影響は受けそう。

ところでDGRのトランス差別の件、もともとこの団体はJensen、Keithのほかにもう一人の創始者がいたのだけれど、その人はDGRによるトランスジェンダーの人たちへの攻撃に辟易して脱退、その後かれの立場におさまった様子なのがもうひとりの著者Wilbertらしく、最近はこの3人で反トランス的な記事をラディカルフェミニストサイトに寄稿している。Jensenは以前、わたしの知り合いのトランス女性活動家を壁際に物理的に追い詰めたうえで、フェミニスト支持を自認する男性として、同じ「男性」の彼女の間違いを指摘して正す必要がある、として女性としての自認を否定しろと迫ったことがあり(めっちゃ恐ろしい)、そういう人の本を紹介するのはどうかとも思ったけれど、本書の内容には関係ない(トランスの話は一切出てこない––差別の話をしているのに出てこないのもどうなんだという気もするけど)ので著者の反トランス主義について明記したうえで紹介することにした。