David Lockwood著「Fooled by the Winners: How Survivor Bias Deceives Us」

Fooled by the Winners

David Lockwood著「Fooled by the Winners: How Survivor Bias Deceives Us

生存者バイアスについての本。正直に言うとこの本はわたし的には珍しく最後まで読まないまま紹介文を書いている本。普段は読み始めたほとんどの本を最後まで読むし、「これあかんな」と思って途中で読むのを止めたら読後報告はしないんだけど、これは二部構成の第二部のはじめあたりを読んだところでその後に出てくる話がだいたい想像ついたので書いている。

生存者バイアスというのは要するに、生き残ったり成功した人やものばかりを調べても生存や成功の秘訣はわからないよ、という単純な話。生存者バイアスの世界一有名な例は、戦争中に損傷した戦闘機が帰還してきた際、飛行機のどの部分に損傷があるか調べてそこを強化しようと思いがちだけれど、実際のところそこは損傷を受けても帰還できた箇所なので、むしろ損傷を受けていない(すなわち、そこを損傷した場合は帰還できなかったと思われる)箇所を強化したほうがいいよ、的な話。このエピソードについての実際の歴史を紐解いて、よく言われているストーリーはちょっと細部間違っているよ、みたいな話がこの本のハイライトで、ほかにあんまり見るところはなかった。

そもそも著者は序盤で、生存者バイアスは数学の難解な考え方であり、自分はこの本でそれを分かりやすく解説するのだ、的なことを言っているのだけど、そもそもこれってそんな難解な概念?むしろ逆に、気づくまでは直感に反しているけど気づいたら「なるほど!」とわかるヒラメキ系の話だと思うので、魅力的な内容にするためにはわたしたちの生活の中から意外な例を指摘して「なるほど!」の快感をたくさん読者に与えてほしいところだけど、「成功者が語る成功の秘訣は、同じことをやって失敗した人の存在を考慮しない限り、意味ないかもよ」程度の話。ブログ記事で十分だわ。

先に述べたように本書は二部構成になっていて、第一部は社会のなかにおける生存者バイアス、第二部は人類全体が生存者となっているパターン、という内容。でも第一部のなかでは「ヒトラーは戦争に負けたから嫌われているけれども、毛沢東やスターリンは同じくらい人を殺しているのに勝ったから現在でも人気がある」的な、生存者バイアスの例として適切なのか怪しい話も多いし、第二部ではホモサピエンスとネアンデルタール人の抗争を取り上げたあと、人類が存続したのは必然ではないとして核戦争の危機や気候変動の影響についての記述が続く。うん、たしかにたまたまこれまで核戦争で人類が滅亡しなかったからといって、これからもそうである必然性はないというのは分かるんだけど、けっこう本題から離れていっている気がする。その後本書はフェルミのパラドックスとか量子力学についての章が続くようなんだけど、まあだいたい内容は想像つくし、生存者バイアスについてなにか新しい学びはなさそうなのでギヴアップ。

著者の略歴をみたところ、過去にスタンフォードのビジネススクールで講師をやっていた、ウォールストリートとシリコンバレーの多数の企業で経営や理事会に参加し、アメリカ政府中枢にアドバイザーとして関わっていた、とのこと。自分はすごい人間なんだってほかはなんだかぼんやりした経歴が多くて、いろいろ残念だった。ただまあ、「このファンドは前期こんなに利益を上げています!同じファンドマネージャの次のファンドにぜひ投資してください!」と売り込んでくる人に対して「そのファンドマネージャがこれまで立ち上げたファンドのリストとそれぞれの利益率を教えてください」と返したところリストをもらえた試しがない、という話はおもしろかった。そりゃそうだ。