Danielle Friedman著「Let’s Get Physical: How Women Discovered Exercise and Reshaped the World」

Let's Get Physical

Danielle Friedman著「Let’s Get Physical: How Women Discovered Exercise and Reshaped the World

女性のエクササイズ文化の歴史についての本。女性とアルコールの歴史について書かれた「Girly Drinks」を読んだときも思ったけど、女性史のなかでも特に興味を持っていなかった分野についての本がこんなにおもしろいとは驚き。歴史的に白人女性たちは汗を見せるのははしたないとされ、また走ると子宮が地面に落ちるなどと言われてスポーツへの参加を禁じられてきたなか、性別を問わず運動が奨励されるようになった背景や、マラソン、エアロビクス、ボディビルディング、そしてヨガなどが女性たちに広まるのに貢献した女性たちについて語られる。

第二次大戦後、兵役を終えた男性たちが帰国すると、それまで人手不足に陥った工場などで労働者として「男らしく」働いていた(白人)女性たちは職を追われ、郊外型ライフスタイルにおける主婦の役割を新たにあてがわれる。その新しい「女らしさ」の不自由さと息苦しさを訴えたのが第二波フェミニズムの重要人物の一人であるベティ・フリーダンだけれど、同じ時期に労働の変化による運動不足と加工食品の普及による健康侵害が問題とされていた。オリンピックでソ連にメダルの数で上回られたことに危機感を感じたアメリカ政府は国民にエクササイズの奨励をはじめ、それに便乗するかたちで女性たちが汗を流すことが認められるようになる。それでも長距離走は女性には向かないなどと言われ、女性であることを隠して選手登録した人がボストンマラソンに参加中に運営者によってタックルされたりも。その後、女性運動の高まりや女性テニス選手のビリー・ジーン・キングが男性元チャンピオンを倒したことなどを通して女性の競技参加を求める声が高まり、現在に至る。

エアロビクスやフィットネスエクササイズの歴史も、反戦運動への関わりから北ヴェトナムに渡って戦車の上で写真を撮られ「売国者」として叩かれた女優ジェーン・フォンダがエアロビクスを通してイメージ更新に成功し、さらにはエクササイズビデオの市場を作り上げるなど大きな影響を持ったという話などおもしろい。マラソンよりさらに「女性に向かない」と思われがちなボディビルディングについては、初期の女性競技者を当時男性ボディビルディングチャンピオンだったアーノルド・シュワルツェネッガーが応援しただけでなく、かれが俳優として出演した「ターミネーター2」で登場人物のサラ・コナー(リンダ・ハミルトン演)が第1作のあとにエクササイズによって筋肉を付けていたことが話題となり「女性の身体のあり方」に一石を投じるなど、シュワルツェネッガーが意外な影響を与えていたり。

女性のエクササイズ文化には、エクササイズにより自分の体を知り、受け入れ、自信を持つというポジティヴな側面と、理想とされる体型に近づくために体重を減らしたり特定の部位を細くしようとしたりする強迫的な側面がある。ボディビルディングなんて特に、自分の体を鍛えコントロールするという自己肯定的な面があるものの、実際の試合では審査員に体を評価されるわけで(しかも女性のボディビルディングでは男性に比べて審査に美容的な要素が多い)、女性解放運動が反対していたミスコンテストとよく似ている。あるとき女性ボディビルダーがプレイボーイ誌に裸で登場し、女性の美しさは一律ではない、と訴えたとき、フェミニストたちはどう反応したらよいか困ったという話も。とはいえ、特定の美のあり方を押し付ける世間の風潮にときに迎合しつつ、同時にそれに抵抗するような、女性エクササイズ文化の先駆者たちの取り組みは学ぶところが多い。

本は最終的にコロナ時代のエクササイズ文化の話となり、zoomを通したエクササイズクラスや、TikTokなどで繰り広げられるより多くの身体に開かれたボディ・ポジティヴなエクササイズ文化について取り上げる。また、近年マドンナなどの影響によりヨガが多くの女性たちに受け入れられるなか、西洋人によってヨガが文化的に簒奪され商業化されたことへの反省から、ヨガを生み出した南アジアの精神文化へのより深い理解と尊敬を伴うあり方の模索についても。わたしはグループエクササイズには興味がないどころかはっきりと嫌いだし、そもそも身体的にも無理なんだけど(クラゲみたいなゆっくりとした水泳もどきだけはなんとかできるけど、水中エクササイズにもついていけない)、読みながら「体がもっと丈夫だったころに参加しておきたかったかも!」と思った。

あと関係ないけど(いや、あるか?)、この本を読み始めてから、頭の中で常にオリビア・ニュートン・ジョンが流れていて止まらない。どうにかしてくれ。